フランシウム87

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海外旅行をもっと楽しむために…┃旅行に行く前にコーヒーの名前は覚えた?

みなさん、今年の夏はどこに旅行に行きますか?

もし海外、しかもヨーロッパに行く機会があるのなら、ぜひその国のコーヒーの種類の名前を覚えていきましょう!

 

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ローマのバルマンに教えてもらった、ヨーロッパ旅行の楽しみ方

 

これは、僕が19歳の時にローマへ旅行した時のこと。

当時、僕はスペインに住んでいました。ローマからマドリッドに帰る飛行機の便はチャンピ―ノ空港という、ローマ市外にある小さな空港から飛び立つ予定だったのですが、そこへ連絡するバスが大幅に遅れていたのです。

季節は11月。駅前で2時間もバスを待つのも寒かったので、近くのホテルの一階にあるバーに入って待つことにしました。

ホテルのバーといっても、そこは照明が落とされたシックなバーとは違いました。金色に輝く真鍮が縁取るバーカウンターが、少ししつこいくらいの山吹色のストライプの壁紙と一緒にシャンデリアで燦々と照らされているようなところだったのです。

カウンターの中にいるバルマンも、その内装に負けないくらい明るい笑顔で僕を迎えてくれたのです。

 

 

 

はじまりは一杯のエスプレッソから

 

僕はカウンターについて、「un café solo, per favore」(café solo=スペイン語でエスプレッソのこと)と注文しました。

「sí señor.」カウンターの向こうのバルマンは、にこにこしながらスペイン語で返事をします。僕はすっかり、エスプレッソの本場・イタリアでは、エスプレッソコーヒーはespressoということを忘れていたのです。

 

ほどなくして、エスプレッソコーヒーが出されました。

あと2時間、どうやって時間をつぶそうか悩んでいました。店内を見回すと、僕から離れたところに恰幅のいい初老の男性が一人、なにか得体のしれないリキュールをなめています。

あのリキュールはきっと、ニガヨモギだろう。なんて考えていると「セニョール、ローマには旅行で?」とバルマンが話しかけてきました。

 

 

 

コーヒーの名前

 

「そうです。もうすぐ帰るんですけど。」

「中国に帰るの?」

「いや、僕は日本人で…スペインに留学してるのでマドリッドに帰ります。」

「へぇ!日本人!」

なんていう、いつも通りの他愛のない会話をします。

 

「café soloなんていうから、おかしいと思ったんだよ。やっぱり日本人か!」

「はぁ?…あぁ、イタリア語でエスプレッソの名前を忘れちゃったんで、スペイン語で言ったんです。」

「覚えるのは簡単だよ!エスプレッソがどうして、エスプレッソっていうか知ってる?」

「いや。」

「ほら、あそこにテルミニ駅があるだろ。あそこから出るエクスプレスと一緒さ。頼まれて、ピュッと準備してパッと出す。ピュッ、パッ。ピュ、パッ。…(これを延々と繰り返される)」

「なるほど!特急と同じ意味か!じゃあ他のコーヒーの名前も理由があるの?」

「もちろん!カフェ・マッキャートは…」

 

こうしてバルマンはつぎつぎにコーヒーの名前の由来の説明をし始めたのです。

 

 

 

「旅行に行くときはコーヒーの名前を覚えていくと良いよ」

 

説明と一緒に実際にコーヒーを作ってくれるものだから、せっかく作ってくれたのを無駄にしてはいけないという義務感から、片っ端からコーヒーを飲み続けてしばらく時間がたったころ。カウンターの離れた男性はまだ黒いリキュールをゆっくりと飲みながら、横目でこちらを観察しています。

 

「ねぇ、日本人。(彼は僕のことを「日本人」と呼んでいました)旅行に行くときに必要なものって何だと思う?」

「パスポートとお金?あとチケット…」

「もちろん!それがなければ旅行に行けないだろう!その他に大切なこと…それはコーヒーの名前だよ。」

 

「ヨーロッパの国だとどこに行ってもコーヒーを飲む。朝のコーヒー、昼のコーヒー、夜のコーヒー、食後のコーヒー、友達とコーヒー…旅行をしていると挨拶と同じくらいコーヒーの名前を口にするんだよ。コーヒーの名前が分からなければ、食後にコーヒーを飲むこともできない!コーヒーの名前さえ知っていれば、他の言葉が分からなくても、少なくとも自分の好きなコーヒーだけは注文できる。どこに行っても注文できるんだよ。それに、コーヒーの名前を知っていれば、またこうやってどこかのバーでおしゃべりができるだろう?」

グラスを拭きながらにこにこしている顔は、これが典型的なイタリア人です。って額縁入れて飾ってもいいような楽しそうな顔。

 

たった一晩の出来事なんですけどね。いまだに鮮明に覚えている旅の1シーンです。

それから、僕は旅行に行くときにはコーヒーの名前を覚えていきます。パリの8区で仲良くなったカフェのおじいさんも、ブダペストの市場でチョコレートをお土産にくれたマダムも、僕がコーヒーの名前を現地の言葉で言えたから接点が持てたのです。

あれからローマには行っていないのですが、まだあのバルマンはいるんだろうか…