フランシウム87

南フランスに住む日本人学生が発信するブログ。

「シニカル」の語源┃道で見かけた犬の看板から考えてみる。

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語源を辿るというのは、とても楽しい旅行をしている気分になります。

先日、道を歩いているときにこんな看板を見かけました。

 

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犬の絵がかいてありますね。しかし、看板の中にはフランス語で「犬」を表す"chien"という単語が見当たりません。実は"CANINES"というのが「犬」を意味しているのです。

なぜ、caninesが犬なのか。そして、「シニカル」という言葉との関係性は?

 

mokuji

 

 

「シニカル」の意味

 

シニカルという単語を自分から自発的に使ったことはあるでしょうか?テレビなどで耳にすることはあると思いますが、なかなか日常会話の中で出てくるような単語ではありません。

意味は「皮肉な・冷笑・嘲笑う」です。似たような言葉にアイロニックという言葉がありますね。こちらは「皮肉な」という意味として会話の中でも使う人はいるのではないでしょうか。

どちらも「皮肉な」という意味がありますが、ニュアンスは若干違うようです。アイロニックのほうは、相手の言われたくないところをうまく言ってやる、といった感じでしょうか。弱点を意地悪に言い当てる感じです。たいして、シニカルのほうは相手を見下して冷ややかにとった態度という印象があります。

 

まだ記憶に新しいパリのシャルリーエブド襲撃事件の時には、シャルリーエブド紙に掲載された例の風刺画を「アイロニックではなく、シニカルであったため問題が生じた」と分析する声がありました。この発言から、両者の違いが何となくつかめるのではないでしょうか。

 

さて、このシニカルというカタカナ語を日本語で表すと何になるでしょうか。

それは「犬儒学派」です。

 

 

古代ギリシャで生まれた「シニカル」

 

シニカルという言葉は、古代ギリシャで生まれたキュニコス派という哲学の流派から生まれた言葉です。キュニコス派(英語でcynic)の形容詞系がシニカル(cynical)。

キュニコス派というのは、当時のギリシャ社会に失望し、その社会を「見下し、嘲笑した」考えであったといわれています。ここから、人を見下した態度をとることを「シニカル」というようになっんですね。

 

なぜこれが日本語になると「犬儒学派」と呼ばれるようになったのでしょうか。

それは、キュニコス派の人たちは、まるで犬のようにそこら辺をほっつき歩き、犬のようにものを食べていたからだといわれています。そういったエピソードから、日本では犬+儒学の組み合わせでこの哲学思想を表すようになったそうです。

 

さて、この「シニカル」という言葉、フランス語のとある単語に似ていると思いませんか?冒頭の写真を思い出してみてください…そう、chien「犬」に音の響きが似ていますよね。

 

 

 

「シニカル」とchienはおなじ語意が含まれていた!

 

音が似ているだけでなく、実際に「犬に似ている」という理由から、キュニコス派の別名、cynicという名前が付けられたのです。

 

フランスの作曲家、エリック・サティの作品の中に「<犬のための>ぶよぶよした前奏曲」という、一風変わった題名のピアノ曲があります。ここでいう<犬のための>とは、言い換えれば<キュニコス派のための>という解釈ができるのです。

 


Erik Satie Préludes flasques pour un chien 1912 by Jean Yves Thibaudet

ちなみに、愛すべきエリック・サティは、同年に「<犬のための>ぶよぶよした本当の前奏曲」も作曲しています。他にも、Je te veuxや3つのジムノペディなど、にほんでもドラマやCMでよく使われる曲を作っているのですが、ぶよぶよした前奏曲はあまり日の目を見ることがありません。

francium87.hatenablog.jp

 

つまり、「シニカル」の語源を掘り下げてゆくと「犬」にたどり着くわけですが、現在私たちが使う「シニカル」には語源の要素が全く残っていないという結果になりました(笑)

 

しかし、ここで看板に書いてある文面をもう一回見てみると、chienという言葉ではなくcaninesという言葉が使われていますね。今度はこちらの言葉を見ていきましょう。

 

 

 

舞台はスペイン領、カナリア諸島

 

スペイン領とはいえ、スペインから南に遠く離れた大西洋上に浮かぶカナリア諸島。

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このカナリア諸島ですが、聞いた感じではカナリア=鳥がたくさんいそうなイメージがありますが(実際、鳥のカナリアはいますが)、この島の名前の由来になったのは「犬」なのです。

 

ローマ時代に、この島が「野生の犬が多くいる島」としてヨーロッパに紹介されました。当時、ヨーロッパで大々的に話されていた言語はラテン語です。そのラテン語で「犬」は"canis"と言いました。

つまり、「犬(canis)が多くいる島」ということで「カナリア諸島」という名前が付いたのです。この島には犬のほかにも色鮮やかで美しい鳥たちもたくさんいました。この鳥たちが後に「カナリア」と呼ばれるようになったのです。つまり、犬がいたからカナリア鳥はカナリアという名前になったのです。カナリアは犬の鳥という感じですね^^

 

また冒頭の看板に目を戻してみると、犬はcaninesという単語で描き表されていました。つまり、これはchienとは別の、よりラテン語(昔の言葉)に近い形の「犬」という単語なんですね。カナリアと犬のつながりが分かっていれば、類推できる単語です。

 

っていうか、カナリア諸島ってとっても素敵なところみたいなんですね。いつか絶対に行きたい!

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犬を巡る言葉の旅

 

道を歩いて偶然見かけたCANINESという言葉から巡ってみた今回の語源の旅。

たぶん、今回見たもの以外にも「犬」という単語にまつわるおもしろい語源のエピソードはたくさんあるでしょう。

こうやって、気になる単語をあれこれ考えてみるのも、フランス語を楽しむひとつのアイデアだと思います^^