フランシウム87

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ジャン・レノが語る、ムスリムのフランスへの同化

この記事、試験期間中に見かけてブックマークしていたんですけど、その後すっかり忘れて放置していました。

www.lexpress.fr

 

ジャン・レノは「レオン」や「ダヴィンチ・コード」などに出演している日本でも有名なフランスの俳優です。最近では車のCMにドラえもんに扮して出演していますね(笑)

そんな彼は、実はフランス出身ではないのです。生まれはアフリカ大陸のカサブランカ。フランス生まれではないが、フランス人としてフランスの俳優という肩書を背負って生き、そんな彼のフランスへの同化の思いが書かれた記事なのです。

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mokuji

 

 

 

モロッコ生まれ、スペインの血

 

ジャン・レノ。本名、フアン・モレノ・イ・エレラ・ヒメネス。モロッコの都市・カサブランカ出身で、両親は南スペインのアンダルシア系だそうです。

つまり、彼はフランス人として、フランスの俳優なのですが、出身はフランス外であり「移民」としてフランスに移り住んできているわけなんですね。

 

このフランス語記事の元ネタは、El Mundo紙というスペインの全国紙がジャン・レノに対して行ったインタビュー(Jean Reno: La fama de Hollywood no sirve pa ná | Papel | EL MUNDO)がもとになっています。インタビューにはあまり応じることのないジャン・レノが、しかも移民問題に話題が触れたとして、ちょっと騒がれたんですね。

 

 

 

フランス文化に同化したものは、ムスリムではない。

 

ムスリム(musulmans)とはイスラム教徒の事です。

フランスは歴史的にムスリムの住んでいる地域を広く植民地として支配していた時期がありました。のちにそれらの地は独立を果たすことになり、植民地下にあった人々は、今度はフランスに移住する気運が高まったのです。なぜなら、フランスのほうが経済が豊かだし、植民地下に置かれていたおかげでフランス語というものが人々の間に少なからず浸透していたためです。

 

今回、このインタビューでは「1960年代に移り住んできた人々と、現在フランスに着いた人々の違い」という質問があります。これに対してジャン・レノは「(フランス文化に)同化した者は、ムスリムではない。」と言っています。

 

 

フランス文化とムスリム

 

フランス文化とイスラム文化というのはかなり大きな問題で、言ってしまえばカトリックとイスラムという宗教的な背景の違いがあるわけです。宗教の違いというのは、日本人である我々にとってはあまりピンとこない部分があるのですが、過去の歴史をみればわかる通り、宗教が原因で起きた戦争や争いは数限りなく存在しています。問題の火種に十分なりうるものなんです。

 

また、フランスには少なくない数のムスリムの人たちがいます。というより、大量にいます。これはさっき書いたように、旧植民地からの流入が多くあったことが理由なのですが、現在でも確実にその人数は増えてきています。

 

以前のムスリムの人たちは、職を求めるためであったり、安定した生活を求めることを第1優先にしていた人たちが多かったので、早くフランス文化に同化しようと努めた人が多く、実際フランスの文化に同化できていたようです。昨今のテロリズムに対する意見の中に、「1960年代にフランスに移住してきたムスリムたちは、貧しい生活を余儀なくされた」といったものを目にすることがよくあるのですが、たぶんこれは間違いです。決して裕福ではなかったにしろ、本国であるアフリカ大陸の国々よりはゆとりのある生活を実現していましたし、フランス人コミュニティーへの参画も積極的に行っていたようなので、現在のテロリズムの発端をこの時代の移住者に求めるのは、見当違いなのです。

 

つまり、この時代に移住をし、フランス文化に同化した人たちは、ムスリムというよりフランス人なのですね。対して、現在問題視されているのが新たに移住してきた人たちや、移民2世などの存在です。彼らは、すでに作り上げられたムスリムコミュニティーのなかで生きてゆくことができてしまうので、「フランス文化」にあえて同化しなくてもいいわけです。「(フランス文化に)同化した者は、ムスリムではない。」という言葉は、裏返せば「フランス文化に同化しないものは、ムスリムである。」という、宗教が混ざり合わない状況を指していることになります。

 

 

私は完全なフランス人ではない。

 

ジャン・レノさん、かなりビシバシ発言してますね~。

彼は出自がフランスでないという事があるため、常に「移民」であることを意識してフランスで生活をしていたそうです。そんな彼の意識に変化が訪れたのは、ニューヨークに移り住んだ時。ニューヨークではすべての人間が「移民」であるため、アメリカにいる間はフランスにいるときほど自分自身を「移民」と感じることはなかったそうです。

そんなこともあり、彼はフランスに対して快適な国であったたとは言えないようです。

 

これは、移民としてフランスに来た人からは多く聞く言葉なのです。フランスはいつでも私たちをよそ者扱いしている、と。「自由・平等・博愛」はフランス共和国の掲げるモットーなのですが、果たしてこれが守られているのか、というと甚だ疑問なところです。みんな薄々感じてはいると思うんですけどね、大人の都合で口にはしません(笑)

 

また、日本ではこういったフランス内での移民が感じる疎外感や、移民内でのコミュニティの発達からテロが起こったなんて言う解説があったりしますが、これも正しい解釈とは言えないでしょう。ともするとフランス人も勘違いしてしまいがちなのですが、イスラム過激思想の人とムスリム一般の人を混同してはいけません。

 

 

 

フランス=ヘキサゴン

 

全然話は変わりますが、記事の文中にこのようなものがありました。

 

Jean Reno dit ne pas se sentir à l'aise dans l'Hexagone.

 

"se sentir à l'aise"は「(自分が)快適に感じる」「居心地がいい」という意味です。

そのあとの"Hexagon"ですが、これはフランスのことを表しています。フランスを地図上で見てみると、(ちょっと無理がありますが)6角形に見えますね。6角形=hexagoneです。新聞や雑誌の中ではよく使われる表現方法なので、覚えておいて損はないでしょう。

 

 

ジャン・レノのように世界的に有名になった人物であっても、フランスにいる限り疎外感を感じてしまう「移民」問題。一般の人々であれば、その重圧はより強いものであることは容易に想像がつくでしょう。また、移民層の人数は決して少なくないという点も忘れてはいけません。フランスの抱える問題性の一端を提示してくれた、ある俳優のインタビューでした。