フランシウム87

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メーテルリンクの童話 「青い鳥 」が死後の世界を考えさせられる

特別お題「青春の一冊」 with P+D MAGAZINE

童話ですが、僕がこの本を手にとったのは17歳のとき。

僕の生死観を一変させた本です。

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メーテルリンクの童話 「青い鳥」

 

名前だけ聞いたことがあるけど、実際に読んだことある人は少ないのではないでしょうか。ベルギーの劇作家、メーテルリンクの作品です。

 

主人公のチルチルとミチルの幼い兄妹が、幸せの青い鳥を探していくつもの世界をめぐる話です。

世界、といっても「思い出の国」や「夜の宮殿」、「未来の王国」など、幻想的な空想の世界を旅するのです。

 

しかし、この兄妹の旅は夢の中でのお話。

目が覚めると、実は幸せは身近にあったんだ。というお話です。

 

童話ではありふれたストーリー性なので、今ではあまり読まれることが多くないようです。

しかし、このありふれた童話の中に、僕の生死観を一変させた言葉があるのです。

 

 

 

印象に残っているのは青い鳥探しの旅ではない

 

チルチルとミチルは、物語の中で「思い出の国」に到着します。

そこは、死んでしまったおじいさん、おばあさん、兄弟たちが住んでいるところ。

2人は久しぶりに再会したみんなとご飯を食べて、楽しいひと時を過ごしています。

 

おばあさんー私たちはいつもここにいて、生きている人たちが少しでも会いに来てくれるのを待っているのよ…みんな滅多にこないわね!…最後にあなたたちが来てくれたのは、えっと…いつだったかしら?…あれは万聖節の日、教会の鐘が鳴った時に…

 

チルチルー万聖節?あの日、僕たちは外に出なかったよ。ひどい風邪をひいていたんだから…

 

おばあさんーでもおまえたちは私たちのことを思い出したでしょう?

 

チルチルーうん…

 

おばあさんーあのね、おまえたちが私たちのことを思うたびに、いつも私たちは目が覚めて、また会うことができるんだよ。

 

チルチルーなんだって!それだけでいいなんて…

 

おばあさんーでもおまえはそんなことは知ってたでしょう?

 

チルチルーいいや、知らなかったよ。

 

おばあさんー(おじいさんに向かって)驚きましたね、あちらの世界では…彼らはまだ知らないんですね。何も教えてもらってないのかしら?

 

おじいさんー私たちのころと同じことだ。生きている人たちは私たちの世界を話すときは、全くばかげているんだ。

 

チルチルーおじいさんたちはいつも寝てるの?

 

おじいさんーあぁ、よく眠るよ。生きている人たちが私たちのことを思い出すのを待ちながらね。人生を終えて眠るというのはいいものだよ。でも、たまに目覚めるというのもいいものだけどね。

 

チルチルーじゃあ、おじいさんたちは本当に死んでいるんじゃないんだ?

 

おじいさんー(驚いて)何て言ったんだい?いまこの子は何て言ったんだ?まったくこの子は私たちの知らない言葉を使って…それは新しい言葉かい?何か新しく発明されたもの?

 

チルチルー「死ぬ」っていう言葉のこと?…

 

おじいさんーあぁ、その言葉だよ…なんていう意味なんだい?

 

チルチルーもう生きていないっていうことだよ…

 

おじいさんーあっちの世界はばかげている!

 

チルチルーここではみんな幸せなの?

 

おじいさんーもちろん、悪くないよ。もしみんながもっと祈ってくれればいいんだがね…

 

チルチルーお父さんがもうお祈りをするなって言ってたよ。

 

おじいさんーそうはいっても、お祈りをするということは思い出すことなんだが…

 

おばあさんーそうよ、その通りよ。ただ私たちにもっと会いに来てくれるだけでいいの…

(拙訳)

 

 

人は死んだ後にどうなるんだろう?

 

よく、人は死んだあとに天国なり地獄なりの「あの世」に行くといいます。

これは死者が主体になってどこかに行くイメージですよね。

 

この物語、おばあさんのセリフでは、生きている人が思い出すだけで死んでしまった人に会うことができる、幸せになれる、と言っています。

生きている私たちが主体の考え。つまり、死後の世界は、生きている私たちの頭の中にある、ということです。

 

 

 

遺された人には後悔が残る

 

人が亡くなった時には後悔が残ります。

生きているうちにあれをしておけばよかった、あれを言っておけばよかった…

でも、僕はこのおばあさんの言葉と出会ってから考えが変わりました。

人は死んでしまっても、いつでも簡単に会えるところにいる。

彼らのことを思い出すだけで、彼らを幸せにすることだってできる。

 

えぇ、これが単なるおとぎ話だという事はよくわかっています。

でもこのおばあさんの一言は、それまでの僕の生死観を一変させました。

この一言のおかげで、海外に居続けることができているといっても過言ではありません。

海外に住んでいると、離れた場所で不幸の知らせを受けることになります。

 

誰かが亡くなってしまったら、そこでその人がいなくなってしまうわけではない。

僕たちの頭の中に彼らはずっといるんだ。

 

さわやかな「青春の一冊」ではありませんが、17歳のころに出会っていてよかったと思う一冊です。

 

 

ちなみにメーテルリンク、第2次世界大戦中にドイツから逃れたという経歴があるため、遺書に「死後もドイツと、その同盟国の日本には版権を譲るな」と書いたそうで、日本での版権は難点があるそうです。

図書館であればどこにでも置いてありますし、童話なのですぐに読み終わります。

ちょっと幻想的な"童話"の世界に、ひさしぶりに浸ってみるのはいかがでしょうか。