昆布のうま味┃フランスの新聞記事から"umami"を観察してみる
みなさん、私たちが持っている5つの味覚を言えますか?
うま味は一番新しく発見された基本味
正解は、塩味・甘味・酸味・苦味、そしてうま味です。
それぞれ、舌の上にある小さなツブツブ(味蕾)が感知できる味、ということで基本味と名付けられています。
ちなみに、辛味というのは味ではなく刺激によって感知するものなので、基本味には含まれません。
「味蕾」は、フランス語で"papille gustative"と言います。
結構目にする単語だし、会話に織り交ぜて使うとなかなか格好がつくので、覚えておいて損のない単語ですよ。
Figaro紙で昆布のうま味に関する記事を発見
近年、日本食ブームという事もあってフランスやスペイン、イタリアなどの日本食産業の成長著しい国々で、昆布が消費され始めているんです。
以前だったら、「出汁はだしのもとで十分!」が欧州日本料理店の常識だったのですが、最近になってやっと自然のうま味に目を向ける料理人が増えてきたんですね。
2年ほど前になりますが、スペインのマドリッドに拠点を置いている、アジア食材を専門に輸入している会社を尋ねたことがあります。
社長の話によると、ここ2~3年で北海道産の銘柄昆布を注文する客がはじめて出た、とのことでした。
僕が働いていたような銀座の料亭ではもちろん、日本である程度お金をいただけるような料理を出す店では、料理の基礎と言えるだしに使う昆布の銘柄はとても重要です。
しかし、ヨーロッパの"日本料理"は、そこまで昆布に対する姿勢がシビアでなくてもいいんですね。
欧米人は"umami"を感じづらい?
日本人は、歴史的にうま味を上手に料理に使ってきました。
…というと、日本人以外はうま味を使ってこなかったのか。と想像してしまいがちですが、そうではありません。
彼らもうま味を利用してきました。
しかし、日本人程うま味"だけ"を抽出して料理に生かすことがなかったのです。
例えば、フランス料理はバターをよく使います。
バターは動物性の油脂で、うま味が含まれています。
だから、フランス料理にはバターを多用するのです。
他にもうま味を強く感じる食材、例えばキノコやトマトなんかを材料の一部として料理に加えてゆきます。
だから、フレンチは「足し算の料理」なんて言われますね。
ですので、「うまい!けど、これはバターの味。」とか、「うまい!けど、これはトマトの味」…といったように、欧米の人はうま味だけを分離して感知することに慣れていないのです。
一方、日本料理ではうま味のエッセンスである出汁を使って料理の味に深みをつけています。
材料をダイレクトに加えるのではなく、昆布や削り節からうま味のエッセンスを抜き出して、それを他の食材に加える。
ここが大きく違うポイントです。
ヨーロッパでは昆布のうま味を求める必要がなかった
味を感知しないのであれば、その味を提供する必要もなかったのです。
しかし、最近の熱意ある料理人たちの探求心から、うま味も自然のものを、そして一級のものを使おうという希望が出てきたんですね。
figaro紙の記事では、うま味という味の説明と、その発見の歴史(20世紀まで発見されていなかったんです!)、それに続いて北海道の奥井海生堂という昆布屋さんの話が紹介されています。
3代目であるTakashi Okuiさん 曰く、「ワインのように、昆布も出来のいい年と悪い年があります」"A l'instar du vin, le combu connaît des années meilleures que d'autres"
さらに、収穫から貯蔵することによって味に変化が出るのだそうです。
まさに、ワインと同じですね!
しかも、彼は「ソムリエ」ならぬ「コブリエ」と自称しているそうです。
素晴らしい…
健康効果も期待できる昆布
記事の最後は昆布で得られる健康効果について触れています。
昆布は全くのカロリーオフ食品でありながら、食物繊維とミネラルが豊富。
ある種のガンについては予防効果がある。
血液循環をよくして老化を予防する。など。
これらは、まだまだヨーロッパ圏では知られていないんですね。
こんな日本の紹介記事がフランス紙のサイトで読めます
こうしてみると、フランス人って結構勉強熱心だと思いませんか?
遥か極東の国の食文化を新聞記事にまとめたところで、僕にはあまり需要がなさそうに思えるんですが…(笑)
でも、ちゃんと市場調査を踏まえてこの記事が作成されたとするなら、今のフランスガストロノミーでは、日本の昆布食文化を知るポテンシャルが十分にあるという事ですよね。
もしかしたら、そう遠くない将来には、日本の昆布価格が上がっているかもしれません。
昆布株を買うなら今ですよ!奥さん!
この記事にはアミノ酸やヌクレオチドなど、化学を勉強してないとなかなかお目にかからない単語がちらほら出てきます。
…が、僕は化学を勉強してるんだった。
これくらいの内容の濃さをスラスラと話せるくらい、フランス語力、化学の知識、食文化の知識をつけないと。
まだまだダメだなぁ。と思い知らされた記事でした
僕は出汁の本ではありませんが分けとく山の野崎さんの料理の本をフランスに持ってきています。海外生活では重宝しますよ。
日本人なら出汁の知識くらいは身につけておきたいですよね。いつかフランス人に一発で納得してもらえるような説明ができることを夢見て。