フランシウム87

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形容詞と性

フランス語を勉強していると、いちいち主語の性数と形容詞を一致させなくてはいけないので大変に思うことがあるでしょう。これはフランス語に限った事でなく、ほかの言語でも形容詞の性数一致が必要になることはよくあります。

こうした文法規則が存在しない日本語を母国語として話している人からすると、なんとも複雑に思えてしまいますが、当のフランス人にとってはこれが当たり前。そんなフランス語のスタンダードから出てきた、日本語ではあり得ないエピソードを紹介します。

 

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名詞の男性・女性

 

そもそも、ラテン語を起源とする言葉(フランス語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、ルーマニア語等…そうです、ルーマニアもラテン語が起源なんです。ルーマニアをローマ字で書くとRomaniaで“Roma”が隠れています^^)は、全ての名詞に性(ここでの性はsexeではなくgenreと言います)が割り振られます。そもそも私のような日本語話者の頭の中では、全ての名詞が「名詞」というカテゴリーに収められていますが、どうやらフランス人をはじめとするこれらの国の人々の頭の中は、「名詞」というカテゴリーは存在せず、はじめから「男性名詞」と「女性名詞」という2つのカテゴリーに分かれて認識されているそうです。そもそも名詞をどう認識しているかというレベルで違いがあるというのは、とても興味深いものです。

また、ローマから見て西方面で発展したラテン語(西ロマンス語族)に見られる特性として、複数形は語尾にsをつけて表します(pain→pains)。反対にイタリア語を含む東ロマンス語族は語尾を変化させることで複数形を表します(spaghetto→spaghetti)。

 

形容詞と男性・女性

 

そして、形容詞は名詞の性や数に一致するという性質があります。(例外は除く)

例えば、「車」という名詞は(une) voitureで、女性名詞です。また、「緑の」という形容詞は男性名詞につくとvert、女性名詞につくとverteと変化します。この場合、この2つの発音は語尾のeの有無によって変化するので、区別することが可能です。他にも区別可能な形容詞にgrand-grande, petit-petite, français-françaiseなどがあります。

区別不可能な形容詞もあります。例えばrougeは男性名詞についても、女性名詞についても形は変わらずrougeのままなので、先行する名詞の性による変化が起こりません。また、espagnol-espagnoleは語尾にeがつくことで文字上の変化はありますが、両者の発音が変わることはありません。

 

性の判別がされていない語

 

面白いことに、一般名詞について性が振り分けられているフランス語において、意外にも性の判別ができないものがあります。その代表的なものは都市名です。例外はあるとしても、性の判別ができない都市名があります。(maremarisさん、ご指摘ありがとうございます)また、名詞ではないのですが、代名詞のjeやtuなどは、それだけでは性の判別ができません。文章で書いてあるとき、または話している言葉を耳で聞いた時、形容詞の語尾変化を見て(聞いて)、初めて主語にあたる人物の性・数が判別するというケースがあります。

 

形容詞によって性・数の判別がされる主語

 

回りくどい書き方をしましたが、今まで書いてきたことがフランス語やその他ラテン語派生の文法の特徴です。こうした特徴があるので、これからお話しするようなエピソードが起きるのです。

 

それは、僕が19歳のころ。スペインに留学を始めたころの話です。

前にも書いた通り、スペイン語もフランス語と同じように、形容詞は主語の性数と一致させなくてはいけません。また、スペイン語はフランス語よりもはっきりと発音する性質があるので、基本的にほとんどの形容詞の語尾は性によって2種類の発音に分かれます。逆に言うと、形容詞の語尾の発音によって、主語の性が容易に判別できるという訳です。

こうした教科書に載っているような基本的な文法規則を頭に詰め込んで始めたスペイン、マドリッドでの生活。しかし、時間を経るにつれて不思議な現象と出会うことになります。

あれ?あの人のいまのフレーズ、整数一致がなってない…?

目の前にいるのは髭もじゃの熊のような男の人。でも、よく耳を澄ませて聞いてみると、彼が自分のことを説明する文章に使っている形容詞が、全て女性形なのです。つまり、例をフランス語で書くと、Je suis contente! スペイン語で書くと、¡Estoy contenta!という風に言っているのです。髭もじゃの熊さんが🐻

もうお分かりかもしれませんが、彼は心が女性なのです。なので、自分のことを説明するときに、形容詞が全て女性形となっているのです。更に言うと、周りの人が彼について話すとき、主語は「彼」を意味するil(スペイン語ではél)、そして形容詞は女性形と、整数の一致が破綻していることがありました。例えば「彼は銀行員だ」という文章では、主語と形容詞において性の一致がなされており、一方で「彼は美しい」という時には、主語が「彼」であるにもかかわらず、形容詞が女性形になったりするのです。これはとても面白い一例で、文章の意味するところで性数が一致したり不一致だったりしていたのです。

外国語の勉強を始めたばかりの人にとって複雑で厄介な話ですが、実生活レベルではこのような教科書に載っていない「生の文法」があります。こうした「生の文法」に触れるのはとても面白いものです。また、日本ではそもそも街中で多くの性的マイノリティの人と出会う機会が少ないのですが、文法においてもこのように「性」を断定する話し方が存在しないので、こういったエピソードが起きることはありません。(女性的な話し方、男性的な話し方というのは日本語にも存在しますが、それは文法とは異なる別の話です)見方によっては、話し言葉において自己の性別を断定しなくていいという点では、日本語はある層の人たちにとって心地の良い言語であると言えるかもしれませんね。

 

おわりに

 

形容詞を主語の性数と一致させる必要があると、今回書いたような面白いエピソードが生まれることになります。そして、こうしたことは日本語では起きることがありません。外国語を勉強するということは、他の国の文化や歴史を学ぶといった点でとても役に立つことですが、まだまだ他にも多くの経験をもたらしてくれるので、とても面白いものです^^