海外髭剃り事情┃フランスに住んでよかったと思うこと
突然ですが、ハンガリー出身の音楽家、バルトーク・ベラの作曲したオペラの名前は何でしょう?そうです。「青髭公の城」です。
僕はずっと、この青髭公は、剃ってもうっすら髭の跡が残ってしまうほど髭が濃いおじさんのことだと思いっていたのですが、そうではないんですね。青髭公の髭は普通に青い毛なのです。
今回は、そんな「髭」についてのお話です。
mokuji
ヨーロッパでは髭がブーム!
今、ヨーロッパでは髭を生やすことがブームになっています。
というより、もはやブームとしての盛り上がりはすでに落ち着き、それでも髭を生やすスタイルは多くの人が持ち続けたため、今では髭を生やすことが普通の光景になりました。
髭というのは、男性の力強さを表す、いわゆるセックス・アピールを担うものです。
髭のある男性はダンディだし、職位の高い男性の多くは髭を蓄えていました。体が成熟していない、まだ子供には髭は生えてこないのです。
僕の住んでいる南仏モンペリエのファーブル美術館にはこんな絵があります。
Bonjour monsieur Courbet - Gustave Courbe
「出会い こんにちはクールベさん」クールベ作の絵です。
この絵、実によく髭の役割が描き出されていると思います。タイトルにあるように、これは画家・クールベと、パトロンと従者が道で「出会い」を果たす場面を描いた絵です。パトロンは赤毛のヒゲに上品なマントをまとった男性。その左隣で視線を落としているのが従者なのですが…登場人物たちの髭に注目してください。クールベさん、自分の髭を誰よりも立派に描いています!しかも、ちょっと上に反ってるくらいに大げさに描いているんですね。
これは、だれが見ても明らかに男性としての力強さの違いを絵の中で描き表しています。しかし、パトロンと言えば彼を経済的に支えている人物です。そんな人よりも自分を威風堂々と描いてしまうクールベさん。。。しかも、この絵は髭の違いだけでは終わりません。自分は太陽の光を一身に受けて、画面の中でひと際明るく目を引く白いシャツに明るい色のズボンをはいています。たいして奥の二人は木の陰に入っちゃってるし、色も落ち着いた色合いで南仏の太陽のもとではどことなくパッとしません。
この絵の詳細からもわかるように、髭というのは視覚的・心理的に力の違いを暗示させる要素の一つなんですね。だからこそ、日本の社会では男性は出社前に髭を剃ることを強制されているのです。上司が髭の生えない体質で、部下が武田信玄のような立派な髭を生やしていたら、やっぱり格好がつかないですよね。
そういうとこ、あんま気にしない。
幸か不幸か、ヨーロッパにはそういった力の違いを気にしない風潮、もしくは違いを嫌う風潮があるようなので、職場でひげを生やす生やさないというのは基本的にはその人個人が決めればいいということになっています。上司に言われてどうこうとか、会社の決まりだからとか、そういうことはないのです。
もちろん、衛生上の観点などから髭剃りが必須の職種というのはありますし、一部公職などでは髭の社会的重要性を鑑みて剃っている人もいますが、社会全体から見れば一部です。
僕はというと、アジア人にしては結構立派に髭が生える体質なので、1日剃らないでいるとすぐに「剃っても青髭公」になってしまいます。だからフランスに住んでいるととっても楽ちん。日本にいるときは、仕事をするときは毎朝剃らなくてはいけなかったので、常に肌荒れに悩まされていたのです。
今となっては笑い話になっているこんなエピソードがあります。僕がフランスに来る前、某通信会社で接客担当として仕事をしたことがありました。基本的に毎朝9時半に出社だったので、朝は7時に起きて髭剃りなど身支度を整えて家を出ていたのです。
で、いつも通り9時半に出社したある日のこと。上司が不満そうな顔で僕にこういうのです。「bantanくんさ、一応君も接客業やってるんだから、お客様の失礼にならないように毎日ひげ剃ってこようね。」
えーもうそんな伸びちゃってますー?って心の中で思いながら「あのーこれでも2時間前に剃ったばかりなんですが…ちょっと髭が濃くて…」と答えたら、「あぁ!そうだったんだ!ごめんね!しっかりやってくれてればいいんだ。髭の濃さは人それぞれだからね。そういえば、昨日の夕方よりは確かに薄いね!」って…2度轢き…。
まぁそんな感じで、髭を剃るときもなるべくしっかり剃ろうとして、それでより肌を痛めちゃったりして、僕の肌質はデフレスパイラル並みに低下していたのです。
打って変わってフランスの生活では髭を剃るのは数日に一回です。たまに重要な人に会うような時もあるのですが、自分の顔に似合っているような伸び具合だったら剃らないか、もしくは軽く剃り整えるだけで終わってしまいます。完全に、見た目重視ですね。
髭から見る社会
今までを男性の力強さの象徴の制約として考えると、現代の髭ブームというのは単なるファッション感覚で火がついたわけではないことが分かります。僕は、このブームの背景にはインターネットが深くかかわっていると考えます。つまり、インターネットによって今まで閉鎖的だった社会が急激に解放されたことによって、これまで当たり前のように順守されていた力の格差が衰退しているのだと思うのです。世界はインターナショナルになるにつれて格差が広がっているなんてことが良く言われますが、髭によって誇示できる男性の力強さはそれにあらず、容姿の違いで守られていたような形式的な格差は、どんどん消えていってしまうように思えるのです。
日本はどうなんでしょうか。髭の有無からスーツの色まで厳しくチェックされるのが僕の日本のイメージなのですが、今は様変わりしているのでしょうか。
髭用の化粧水もあるよ
たぶん日本にはこういうものってないと思うのですが、ヨーロッパでは髭の生えている肌用の男性用化粧水というものがあります。主にビタミンEが配合されているものです。
右のほうに白い字で"PIELES CON BARBA"とスペイン語で書いてあるのですが、これは「髭のある肌」という意味です。ビタミンEは細胞の生成に効果がある栄養素として知られていて、肌や爪、そして毛の生成に一役買っているのです。まぁ、外側からすり込んでどれくらいの効果があるのか、ということはさておき、より元気な髭を得るためにこんな化粧品があるのは、日本人的な視点から見るとなんだか笑えてしまいます。
海外のシェービングフォーム
これは完全に僕個人の感想です。
僕の髭は、アジア人にしては多少濃いのですが、髭質自体はアジア人らしく太くしっかりとしたものです。欧米の男性の髭、あるいは頭髪を触ってみるとよくわかると思いますが、彼らの毛質はアジア人のものと違い、細くて柔らかいのが一般的です。
見るからに柔らかそうな毛質。
となると、シェービングフォームの効き目もヨーロッパのものと日本のものとでは変わってくる。僕も何回かこちらでジェルやムースなど、髭を柔らかくして剃りやすくするためのものを買ってはいるのですが、効き目が不十分なのです。結局、力を加えて髭を剃らなくてはいけなくなり肌を痛めてしまう結果に。なので、僕は日本に帰ったときには、日本のシェービングフォームをいくつか買ってくるようにしています。ジレットとか、世界的に同じブランドだと成分が同じだとは思うんですが。。。なぜかこちらで買ったものではうまくいきません。単なる気のせいでしょうか?
っていうか、フランスは前から髭好きだった
書いてるうちに思いついたんですが、フランスと言えば髭でしたね(笑)
名探偵ポワロのトレードマーク、あの「ムスタッシュ」です。
このムスタッシュ、つまり口ひげは、フランスではとってもポピュラーなアイコンの一つです。雑貨屋さんに行けばムスタッシュの柄のペンケースやノートがありますし、ムスタッシュがプリントされたTシャツもあります。こんなおしゃぶりをした赤ちゃんに町中で遭遇することもしばしば。
かわいいですよねー。おしゃぶりをつけた時と外した時のギャップはたまりません^^
フランス人男性は、やっぱり昔からおしゃれに対して意識がの高い人種なので、髭ブームが広がる下地というのは国民性の時点ですでにあったのかもしれません。
おわりに
まぁアジア人として髭が濃い一人の男の視点から言わせていただくと、フランスの生活って楽です。髭の制約一つなくなるだけで、こんなに開放感があるのかと。
日本は、幸いなことに髭の薄い人も多くいるので毎日剃ることに対して問題が少ないのかもしれませんが、やっぱり髭の濃い人にも配慮をしてほしいですよね。会社から髭レーザー脱毛代が支給される世の中になった、僕は日本に飛んで帰ります(笑)