フランシウム87

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カルケル(calcaire)とカルキの違い┃フランスの水は体に悪い?

フランスで生活していて、日本人のこんな言葉を耳にしたことはありませんか?

「フランスの水にはカルキが多く入っているから、肌や体に良くないよ。」

また、フランスの水にはカルケル(calcaire)というものが入っているとも言われます。

 

さて、このカルケルとはいったい何なのでしょう。多く入っていると体に良くないのでしょうか。

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カルケルとは?

カルケルとは、炭酸カルシウムのことです。カルケルの水(eau calcareuse)は、炭酸カルシウムが溶け込んだ水、という意味合いで使われます。

フランスには石灰岩を多く含んだ土壌が多く、さらに広い大地を長い時間かけて地下水が浸透します。石灰岩にはカルシウムが豊富に含まれていて、そこを水が通過することで炭酸カルシウムが含まれます。このように炭酸カルシウムが豊富に含まれた水は、一般的に「硬水」とよばれ、日本でもみかけるフランス産のミネラルウォーターなどで販売もされています。

 

反対に、日本は石灰岩を含んだ土壌が比較的少なく、さらに縦に長い地形から山に降り注いだ雨水は短距離で海に流れ込むので、地下水として流れている時間は少なく、土壌から炭酸カルシウムを含む量が少なくなります。日本のように炭酸カルシウムの含有量が少ない水は「軟水」と呼ばれます。

 

つまり、フランスの水は日本の水と比較してカルケル(炭酸カルシウム)が多いということになります。

(注:硬水・軟水の区別は炭酸カルシウム以外のミネラルも関わってきます)

 

カルケルとカルキの違い

一方、カルキは上水場で水を殺菌するために使われる薬品のことです。正式名は次亜塩素酸カルシウムと言い、カルシウムのほかに塩素が含まれているのが特徴です。塩素は漂白や殺菌の目的でキッチンハイターなどにも含まれているもので、有毒性があることはよく知られていると思います。(もちろん、上水場では健康に害のない範囲の量でカルキが使用されています)

つまり、カルケルは自然由来の炭酸カルシウムで、カルキは殺菌目的の薬品であるため、両者は全く異なるものです。であるにもかかわらず、フランスに住んでいる日本人の中にはこの2つを混同してしまっている人が少なからずいて、冒頭で書いたような話をする人がいます。

 

カルケルは体に悪い?

カルケルの有毒性は皆さんの気になるところだと思います。結論から言うと体に害はありません。

カルケルはカルシウムと同じだと考えて差し支えありません。カルシウムは、言うまでもなく人間の健康に必要不可欠なミネラルの一つです。フランスの水道水にカルシウム含有量の上限は設定されていません。なぜならカルシウムは自然の水の中に含まれているうえ、過剰摂取になる恐れはとても少ないからです。

試しに調べてみたところ、フランスの水道水に含まれるカルシウムの量は60~140mg/Lだそうです。(参考:L’eau du robinet est trop calcaire - Doctissimo)フランスは場所によって土の中の石灰岩の量が異なるため、そこを通る地下水のカルシウム含有量も変わります。一般的にフランス南部におおきな石灰層があるため、中央・南フランスの水はカルケルが多い傾向があります。また、東京水道局によると日本の目標値は10~100mgだそうです。(参考:キッズコーナー|東京都水道局

仮にフランスでカルシウム量の多い140mgを採用しましょう。National Academy Pressが発表したところによると、19~50歳の男女の1日のカルシウム許容上限摂取量は2500mgです。これを水の量に換算すると、約18Lとなります。一日に水を18Lも飲むことは不可能です。もし18Lの水を飲めば、カルシウムの量ではなく、ほかの要因で死んでしまいます。もちろんカルシウムは水以外の食品から摂取するほうが一般的ですが、サプリをたくさん接種しない限り許容上限量を超えることはほとんどありません。(参考:カルシウム | 海外の情報 | 医療関係者の方へ | 「統合医療」情報発信サイト 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業)ちなみに、体重70kgの人の理想的な一日当たりの水摂取量は3Lだそうです。

また、カルケルは循環器疾患(脳卒中や動脈硬化などの血管系の病気)の原因になると言われることもあります。確かに硬化した血管にはコレステロールや脂肪のほかにカルシウムなどのミネラルが含まれています。しかし、ここでもカルシウムの直接的な影響より、むしろ遺伝や喫煙などの生活習慣、コレステロール値のほうが重要視されているので、あまり関係がないようです。むしろ、Le Centre d'information sur d'Eauでは、水に含まれているカルシウムやマグネシウムは循環器系の病気の予防に貢献すると説明しています。(参考:L’eau du robinet et ses effets sur la santé | Centre d'information sur l'eau

日本の水と比較してカルシウム含有量の高いフランスの水であっても、それぞれのカルシウム許容上限量に占める割合を適正量の3Lで計算すると、日本は100mg x 3L = 300mg(一日の許容上限摂取量の12%)、フランスは140mg x 3L = 420mg(同16.8%)となり、あまり差はないと思います。もちろん、この微量な違いも継続的に摂取すれば何らかの影響を人体に与えることも考えられますが、今のところ公式に発表されている弊害はありません。(カルシウム以外の議論がないことはないのですが、話がややこしくなるのでここでは割愛します)

硬水で有名なコントレックスには468mg/Lと、水道水より多いカルシウムが含まれています。水道水のカルケルの安全性を気にする人は、普段飲んでいるボトル入りミネラルウォーターのカルシウム含有量についても気を付けたほうがよさそうです。

 

カルケルの多い南フランス

南フランスの水にカルケルが多く含まれているということは、フランス人の間でもよく知られていることです。カルケル=炭酸カルシウムは普段水に溶けていますが、乾かしたり加熱すると姿を現します。日本ではないことですが、フランスでグラスを洗って自然乾燥させると、ガラスの表面が炭酸カルシウムで曇ります。ちょうど、風呂場の鏡が白く曇るのと同じ感じです。また、電子ケトルの内側(特に電熱線の部分)は石灰の層ができますし、長い間掃除していなければ水道の蛇口は石灰で塞がれてしまいます。特に困るのは、各家庭に設置されている給湯器がカルケルによって壊れることです。給湯器が壊れた場合に修理費を補填してくれる保険というのが電力会社にあり、これの恩恵を受けたのはほかでもない僕です^^

また、カルケルを多く含む水は敏感肌の人にとってヒリヒリすることがあります。髪にも刺激が強すぎるためクセが出やすくなることもあるようです。この2つに関しては、フランス生活では日本よりも屋外で紫外線に当たる時間が長くなる傾向があるため、一概に水のせいだけとは言えないかもしれませんが…

洗濯石鹸の働きが硬水によって悪くなるため、洗濯機がデフォルトの設定で2時間近く回る…というのも硬水の国あるあるかもしれません。また、味噌汁や白米を炊いても思ったような味にならない…というのは、あなたの腕のセンスではなくて水のせいにすることもできます。

 

カルケルの大地を見てみよう!

南フランスは太古の昔、幾度の海面上昇によって地中海に沈んでいたことがあります。そのため、現在は陸地になっているようなところでも、足元をよく見てみると新生代の貝殻の化石をたくさん見つけることができます。このように大量に堆積した貝殻の化石などが石灰岩の主な素材となりました。

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よく、ワインのコメントでミネラルの味というのを聞きますが、これはブドウの木が育った土壌に関係していることがあります。つまり、南フランスの石灰質の土地で育ったブドウから作られたワインは、その昔の地中海の香りを思わせるようなミネラルの香りがするのです。ワインから悠久の大地の歴史に思いを馳せるなんて、なんだかおしゃれですね。

 

おわりに

 

今日の記事を読んで、カルケルとカルキの違いについてよく理解できたと思います。

確かにカルケルの水のように、ミネラルを多く含んだ水は、慣れ親しんだ日本の水の味と違うため、おいしくないと感じるかもしれません。しかし、噂されているほど危険なものではありません。気を付けるべきは、水道、キッチン家電のほうでしょうか。

それでも水の味が受け付けられないときはあると思います。僕もスペインのバレンシアに住んでいるときは水が本当にまずくて困りました。そういう時は、仕方がないですがペットボトル入りの水を買うしかないようです。