フランスの住民の呼び名┃gentiléを知っていますか?
パリジャン。パリジェンヌ。
日本でもおなじみのこれらの単語は、「パリの」を表す形容詞です。
前者は男性名詞につく形で、後者は女性名詞につく形・
例えば、「マカロン」という単語は男性名詞ですので、「パリ風マカロン」と言いたいときには、「マカロン・パリジャン("macaron parisien)」となります。
しかし、このパリジャン/パリジェンヌは、パリに住む人を表す住民の呼称も使われます。例えば…
Il est parisien. (形容詞)
Je connais un parisien. (名詞)
といった具合に、形容詞だけでなく名詞としても使われるんですね。
この住民の呼称の事を、フランス語でgentiléと言います。
豊富な住民の呼称
フランス語に限らず、ヨーロッパの言語では住民の呼称が細かく命名されていて、知らなければわからないような場面も出てきます。
例えば、日本であれば「地名・国名+人」とかで、ほとんどの住民の呼称は作ることができます。フランス人、日本人、大阪人、江戸っ子…
しかし、フランス語ではこういったことが起きてしまうのです…
「スペイン(Espagne)」⇔「スペイン人(Espagnol/Espagnole)」
「日本(Japon)」⇔「日本人(Japonais)」
この2つのパターンは同じではないことが分かると思います。
さらに、
「オランダ(Pays-Bas)」⇔「オランダ人(HollandaisもしくはNéerlandais)」
ここまでくると、形がまるで変ってしまっています。
このように、知識がなくては分からないのがフランスのgentiléなのです。
簡単なものから難しいものまで
今あげた例は国名・国民の呼称でしたが、今度はフランス国内に目を向けてみましょう。
まず、パリやリヨン、マルセイユなどの主要都市のgentiléは、順にParisiens、Lyonnais、Marseillaisです。(女性形は省いて書いています)あまり難しくないですね^^
僕の住んでいる南仏の都市・モンペリエMontpellierはどうでしょう。
正解はMontpelliérainsです。読み方は「モンペリエらン」で、LもRも出てくるので、僕がスムーズに言えるようになったのは最近ことです(笑)
世界史でおなじみの大シスマ(教会大分裂)という出来事で、カトリック教会は過去にローマともう一つの勢力に大分裂してしまったことがあります。今でこそローマのヴァチカンが教皇の居住地としてカトリック教会最高権力の地でありますが、過去においてはローマ以外にも教皇がいた場所があるんですね。それがモンペリエの東に位置する、アヴィニョンAvignonです。この町のgentiléはAvignonnaisで、「アヴィニョネ」と呼びます。なんだかかわいいですね。
ちなみに、この意地を張ってアヴィニョンに居続けた教皇っていうのは何人かいるんですけど、そのなかのベネディクトゥス13世にいたってはさらに追いやられて、スペインの地中海沿いの町・ペニスコラというところまで追いやられているんです。
2009年にペニスコラを訪れた時の写真。風光明媚で大変明るい町です。
当時のローマやアヴィニョンのような進んだ都市に比べたら、地中海の要塞都市ペニスコラなんてしょぼい町だったと思うのですが、これだけきれいな海沿いの街で残りの人生を過ごせたなんて、それもそれでいい境遇だったんじゃないかと思うんですよね。アヴィニョンのように、立派なお城まで建っていたんですから。
そして、このベネディクトゥス13世はモンペリエ大学で学んだそうなので、僕の遠い先輩にもなります(笑)
さて、クラシック音楽が好きな人なら、南仏のアルルという街の名前を聞けばすぐにピンとくるでしょう。あの有名な「カルメン」を作曲したフランスの作曲家・ジョルジュ・ビゼーは、「アルルの女」という、これまた誰しもが一度は聞いたことのあるような有名な曲を書いています。
Bizet - L'Arlesienne Suite No.2 "Farandole" : Paavo Jarvi & Paris Orchestra
この曲、邦題では「アルルの女」となっていますが、フランス語では"L'Arlésienne"と言います。この単語は女性名詞形なので、一つの単語で「~の女」というところまでわかってしまうんですね。
また、この町の名前「アルルArles」は、フランス人にとって日本人が発音すると面白い単語の一つでもあります。理由は、RとLの異なる2種類の音が含まれているにもかかわらず、日本語流の発音にすると、どちらもLの音になって音が全く変わってしまうからです。
もっと難しいgentilé!
さて、もうちょっと深くgentiléを追いかけてみましょう。
南仏はモンペリエのすぐ西にあるベジエBéziersという街は、一説によるとフランスいち古い町(Quelle est la plus ancienne ville de l'Hexagone ? | www.directmatin.fr)という事なのですが、ここのgentiléはビッテロアBitteroisです。覚え方は意外と簡単で、フランス人は「bite(男性器)のroi(王)」という風に覚えています。。。
この町のレストラン、La Maison de Petit Pierreはアクセスが少し難しいのですが、おいしいのでお勧めです。
Ggentiléって、サッカーなんかをよく見る人にとっては結構重要だと思うんですよ。なぜなら、サッカーチームって町の名前ではなくてgentiléで呼ばれますからね。
そんなサッカーファンたちの間でよく話題に上るのが、サンテティエンヌSaint-Étienneという町。ここのgentiléは、なんとステファノアStéphanois!!!形がまるで変わってしまっています。
このほかにも、探してみるとたくさんの変わったgentiléがあるので、調べてみると面白いですよ。
フランスでもあまり知られていないgentilé
ちなみにこのgentiléという単語、フランス人でもたまに知らない人がいます。
Quel est le gentilé de ~?とか尋ねても、そもそもgentiléとい単語の意味が伝わっていなければ、会話が成立しません。しかも、gentiléという単語の意味がわかったところで、はたしてフランス人全員がすべての地域の住民の呼称を知っているかというと、そんなこともまずありえません。
自分の知りたいgentiléを手っ取り早く調べたい場合は、wikipediaから調べると良いでしょう。
まず、知りたい町の名前でwikipediaを検索して、そこからフランス語での説明のページに飛ぶと、右側に人口や面積などの都市の概要の説明欄に、Gentiléも書かれています。
Saint-Guihelm-le-Désertという、モンペリエ近くにあるスネスコ登録されているかわいい町のページでの例。赤枠内にgentiléが書かれています。調べてびっくり。この町の住民は"Sauta Rocs"と呼ばれているそう。ラテン語みたい…本当か??
おわりに
ちなみに、東京の人はなんていうと思いますか?答えはTokyoïtesです^^
gentilé名人になって、フランス人たちとクイズを出し合ってみるのも面白くていいですね!