フランシウム87

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フランスの牛乳は賞味期限が長い!?常温で販売が常識!?

海外でこんな場面に遭遇したことはないでしょうか。

冷蔵庫内ではなく、普通に常温の棚に並んで売られている牛乳。。。

僕は日本生まれ日本育ち。牛乳は冷蔵庫に並べて売られるものだと20年近く思い続けていましたが、スペインに留学した時にその固定概念を打ち破られました。

 

冷蔵庫に入れられていない牛乳、異常なほどに長い賞味期限、そして気になる牛乳の質の違い。せっかくフランスで生物学を勉強しているので、今回はこの謎の牛乳の真相に迫ってみようかと思います。

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 これはブルターニュ地方で見かけた牛。乳牛かどうかはわかりません。

 

mokuji

 

 

なぜ長い?フランスの牛乳の寿命

 

フランスのスーパーで一般的に売られている牛乳は、長いものでは3ヶ月もの賞味期限が設けられています。日本の数日しか日持ちのしない牛乳と比べると、ありえないほど長い寿命を持っています。

そして、もう一つ驚くのは、ほとんどの牛乳は冷蔵保存ではなく常温保存の状態で売られているという事。これは後で説明しますが、冷蔵庫の中に並んで売られている牛乳もi一部あります。

また、多くの日本人は「フランスの牛乳はなんか味が薄い」とも言います。

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フランスの一般的なスーパーで地面に並べて売られている牛乳たち。

 

さて、なぜフランスの牛乳は日本の牛乳とこうも違うのでしょうか。

 

まず、長期保存可能である点について。

フランスの牛乳のラベルをよく読んでみると、「UHT」という表記を目にします。これはUltra Hight Temperature(フランス語ではUltra Haute Temperatureで同じ頭文字)つまり「超高温」を意味します。

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右の牛乳、よく見るとラベルの3行目にUHTと書かれています。消費期限はなんと2017年1月10日!

 

牛乳の処理には大きく分けて3種類あり、

 

・62-65℃で30分加熱→低温殺菌

・75℃で15秒殺菌→高温殺菌

・120-130℃で1~5秒殺菌→超高温瞬間殺菌(UHT)

 

と分けることができます。

先に見たUHTは、「超高温瞬間殺菌」という方法を意味しています。この方法で殺菌された牛乳の内部には微生物がほとんど残らず、長期間保存しても安心して飲めるくらいの汚染量であることが認められているのです。

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この写真を撮ったのが9月30日。フランスでは日付を日/月/年の順に書くので、この牛乳の消費期限は2016年12月9日までであることが分かります。

 

そして、このUHT方法で殺菌された牛乳は、常温の状態で放置しておいても長期間で内部の微生物が、体に害を及ぼす数まで増殖しないことが分かっています。そのため、写真のように常温状態で陳列していても問題がないんですね。

また、UHT以外の殺菌方法、つまりUHTよりも低い温度帯で殺菌した牛乳は冷蔵保存の状態で別コーナーで販売されています。ただし、種類は格段に少なくなります。

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ここが冷蔵牛乳コーナー。一番下の一段だけが牛乳です。あとはクレーム・フレッシュという、酸味のないヨーグルトのようなものが並んでいます。

 

 

なぜ短い?日本の牛乳の寿命

 

反対に、日本では一般的に牛乳は冷蔵された状態で売られていますよね。

実は、フランスのように長期常温保存牛乳、別名ロングライフ牛乳(LL牛乳)というものも日本に存在します。しかし、これはおもに集団調理や製菓の場で使われることが多い業務用が主体の製品で、一般家庭では災害グッズとして用意する以外にはあまり需要がないかと思います。

 

さて、ここで問題。

フランスの長期保存型牛乳はUHTという殺菌法ですが、日本の賞味期限の短い牛乳はどのような殺菌方法がとられているでしょうか?

 

はい、正解は…フランスと同じUHT法です^^!

なんと、フランスも日本も同じ超高温低瞬間殺菌という方法で牛乳を殺菌しているのですね。

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日本からも写真を送ってもらいました。どれもスーパーの冷蔵庫に並んでいた牛乳パックです。殺菌方法がちゃんと書かれていますね。

 

ちなみに、誤解を招かないように言っておくと、日本で売られている牛乳にはUHT以外の方法で殺菌された牛乳も多く売られています。つまり、日本の牛乳コーナーの冷蔵庫には、上で紹介した3つの殺菌方法の牛乳が混ぜて販売されているんですね。

 

また、「フランスの牛乳は味が薄い」という問題点についてですが、日本人は牛乳を超高温で殺菌したときに発生する「こげ臭」を「コク」と捉える性質があるらしく、欧米よりも数秒長く超高温殺菌を施しているそうです。軽く焦げさせてコクをだすなんて、なんかすごい職人芸。

だから、逆に欧米の人が日本に来ると「うっ…日本の牛乳変な味する…」という事になるのだそうです。日本のスタンダードは世界のスタンダードではないのですね。日本でも「牛乳独特の匂いがダメ…」というのは、この「こげ臭」を生理的に受け付けないことが原因の一つでもあるそうです。

 

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 栄養表記は/100mlだったり/200mlだったり/100gだったり、基準がバラバラなので間違えないように。内容のおよそ87パーセントは水です。

 

フランスの牛乳も日本の牛乳も同じもの

 

つまり、フランスの牛乳も日本の牛乳も、UHTと書かれていれば同じものなのでしょうか。

 

そうは問屋が卸しません。そもそも、両者には賞味期限の違いという決定的な違いがあります。また、これほど違う性格を持っている牛乳であれば、栄養価の違いなんかも気になるところですよね。

 

まず、賞味期限の違いについてですが、日本の牛乳がUHT法で殺菌しているにもかかわらず冷蔵保存・販売されているのは、包装が欧米の牛乳とは違うからだという理由があります。中身の牛乳がいくら微生物の数を減らされていても、その内部の環境を守り抜く包装がしっかりしていなければ意味がありません。

また、そもそもUHT法の温度帯では長期保存に向かないという見方もあります。(牛乳の殺菌方法)こちらのサイトを見たところ、ロングライフ牛乳にはUHTよりも高い温度帯での殺菌がされてることが分かります。

 

しかし、なんか変だと思いませんか?

「こげ臭」を好む日本人。そのため欧米より長い時間をかけてUHT殺菌された日本の牛乳。普通に考えれば、殺菌にかける時間が長ければ長いほど、より多くの菌が死滅すると思います。しかし、同じ方法でより長い時間かけて殺菌された日本の牛乳は、欧州の牛乳よりも寿命が短いのです。

 

ここには、こんなからくりがあるとも言われています。

僕たちが牛乳を買うとき、やっぱり気になるのは牛乳のフレッシュさでしょう。冷蔵庫に陳列されている牛乳と、ミネラルウォーターと同じ常温の棚に陳列されている牛乳、どちらのほうがおいしそうに見えますか?それはやっぱり冷蔵庫の牛乳ですよね。

というわけで、加熱処理の方法的には長期保存が可能な牛乳も、保存期間を短く、冷蔵庫に陳列することによって購買意欲を掻き立てる狙いというのも考えるそうなのです。

といっても、あくまでこれはある一つの考えです。しかし、これもまた推論ではありますが、日本の未開封のUHT牛乳であっても、これを3ヶ月冷蔵で保管したら、きっと腐ると思うんですよね。やったことないのでわかりませんが。

何とも言えません。こういう時には、試料でどれくらいの微生物がどの程度の速さで増殖するかという実験値を見ればからくりが解けそうなのですが。僕も、牛乳業者各社のサイトを見て回ったのですが、どこも肝心のデータを出さず、企業独自のおいしい牛乳製法の紹介をするばかりです。

 

どなたか、牛乳の保存事情に詳しい方おしえて~!

 

栄養については殺菌方法で大きく変わるものはないとされています。ある種のビタミンは加熱温度や時間によって変性するのですが、もはや栄養素が少ないのでそこまで気にするものでもないかと思います。たまごを生で食べるか茹でて食べるか、といったように、大まかな栄養はほとんど変わらないのと同じことです。

 

 

「牛乳は体にいい」は過去の話

 

小さいころ、牛乳は体にいいからたくさん飲みなさい、なんて言われたことはありませんか?この言葉、乳糖不耐症(牛乳飲んでお腹痛くなるやつ)の人にとっては拷問の言葉でしかありませんよね。

確かに、牛乳にはカルシウムをはじめ、様々な栄養素が含まれています。そのバリエーションがかなり豊かなので、「牛乳って体によさそー^^」と思いがちですが、そもそも牛乳のほとんどの成分は水です。水。H2O。

残りのごくごく微量の物質が、脂質、タンパク質、カルシウム etc.だったりするのです。

ですから、フランスの栄養学の分野では、今では牛乳は飲んでも健康面であまり期待のできない飲料に位置付けられています。

 

ちなみにフランス人のおばあちゃんと朝ごはんの食卓を囲むと、執拗に「カフェ・オ・レを飲みなさい!」と言われます。カフェ・オ・レって、平たく言えばコーヒー牛乳の事なんですが、サイズがかなり大きいんです。これを飲むには専用のカフェ・オ・レ・ボウルを使いますからね。

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小食の僕のごはん茶碗よりも大きな、フランスのカフェ・オ・レ・ボウル。

 

おばあちゃんになんで?って理由を聞いてみましょう。「朝に栄養満点の牛乳を飲むと健康にいいのよ」と。まぁ栄養どうこうはいいとして、バターの香りが香ばしいクロワッサンと一緒に飲むのは最高ですね☆

 

 

牛乳の冷蔵保存をしないフランスは、その分の電気を使わなくてエコロジー?

 

牛乳を地面に平積みにしているフランスのスーパー。

牛乳のために冷蔵庫を使っていなければ、その分電気のエネルギーを使っていないことになるので、環境に配慮していると思いますよね。

否!フランスには無視できないチーズの文化があるのです!

フランスのチーズにはさまざまな種類があって、それは1日1種類のチーズを食べても、1年で全てを食べることはできない、とも言われています。また、フランス人の食事にとってチーズは欠かせない食材。日本人の味噌汁くらい外せないものかなぁ、なんて思います。

そのため、チーズの売り場はかなり大きい。それに、チーズは冷蔵品であるため、やっぱり冷蔵庫が必要なんですね。

僕のよく行くスーパーにはここと、

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その反対側と、

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あとちょっと離れたところに地元と海外のスペシャルチーズを扱う、

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計3箇所のチーズ売り場があります(笑)日本で人気のチーズ、コンテも、常時何種類もありますよ~(幸)

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対して、冷蔵用牛乳の売り場は上の写真でも紹介した小さな一角のみです。下のほうにちょっとあるのが牛乳です。

ちなみに、この冷蔵用牛乳は特に殺菌温度・時間の記載はされていませんでした。代わりに、ミクロ・ファイバーという、牛乳は通すけどバクテリアは通さない特殊な繊維でろ過する「減菌」方法を採っているとの記載がありました。

 

 

おわりに

 

日本から海外に出ると、食べ物の違いでショックを受けるという事がよくあるようです。今回の牛乳問題もそうですが、他にも卵の黄身が白っぽい問題キュウリの皮が固すぎる問題なかなかでんぷんが糊化しない米問題など、枚挙にいとまがありません。

衣食住と言われるくらい、食は私たちの生活にとって大切な存在。海外にいても日本にいても、またその双方の環境においても自分の判断力を養っていくのが、グローバルな現代での「食育」なのではないでしょうか^^