フランシウム87

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なぜスープは”食べる”のか?

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その昔、寒く陰鬱としたパリの街角で、とあるパン屋がコンソメスープを提供していたそうです。この暖かく、滋養のあるスープは、寒く凍えたパリの人々の力をrestaurer(立て直す)したことから、いつしかこのパン屋はrestaurantと呼ばれるようになりました。これは「restaurant(レストラン)」という言葉の成り立ちについての有名な話です。今回はこの時に提供されていたとされるスープに焦点を当てて考えていきたいと思います。

 

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スープは”飲む”?それとも”食べる”?

フランス語を勉強していると、日本語とは異なる言葉の使い方に驚くことがあります。スープを”食べる”というのもその一つではないでしょうか。日本語では「スープを"飲む"」と言いますよね。しかしフランス語、いや、欧米ではスープに対して"食べる"という動詞を使うのが一般的です。

僕は最近まで、スープにはたくさんの具が入っていて、それをスプーンという食器を使って口に運ぶから”食べる”を使うんだろうなぁーと漠然に考えていました。しかし、よく調べてみると、理由は他の場所にあったのです。

 

スープの材料

スープと聞いて、どんなものを思い浮かべるでしょうか?野菜や豆が入ったミネストローネの様なもの?レストランで出てくるような明るく澄んだコンソメスープ?それとも世界で親しまれているmiso soupもスープの一つです。

冒頭で紹介したレストランのはしりが提供していたスープは、今の私たちには少し馴染みのないスタイルかもしれません。当時、このレストランと呼ばれ始めたパン屋で提供されていたのは、肉のストック(煮出し汁)にパンを浸したものであったようです。場合によっては肉と一緒に根菜類、ハーブ、スパイス、砂糖、ハチミツなんかも一緒に煮ていたのだそう。寒い時期であれば根菜類を使うのは頷けますし、パン屋が提供しているのだからパンを使うのも納得がいきます。また、砂糖というのは昔は貴重なエネルギー源でした。今でもお年寄りのフランス人とかは、朝食にたっぷり牛乳(タンパク質)と砂糖(糖質)を入れたカフェ・オ・レを飲むのが健康に良いという人がいます。

つまり、当時スープとして出されていたものは、肉のだし汁にパンが浸されていたものと想像すると良いでしょう。ロイヤルホストのオニオングラタンスープみたいなものでしょうか。

 

スープの語源

 

そもそも、なぜスープは「スープ」と呼ばれるようになったのでしょうか。その謎の答えは前出のレストランのスープにあります。

soupeの語源となるラテン語のsuppaは「出汁に浸された一切れのパン」という意味があります。意味の定義がちょっと変わっていますね(;・∀・)

もうお分かりかと思いますが、soupeという言葉が意味するものは、本来スープの中に浸されて提供されていた一切れのパンのことだったのです。それがいつの間にかパンが浸されている液体物のことを指すようになり、現代に伝わっています。

しかし、パンのことを意味していた証拠は現代フランス語にしっかりと残っています。それがスープに対して使われる”食べる”という動詞です^^

 

ちなみにêtre trempé comme une soupeという言葉があります。僕は今まで「シャバシャバの液体スープにまみれてるくらい濡れている」という光景を頭の中に思い描いていたのですが、違うんですね。正しくは、soupeの原義である「液体に浸かったパンのように濡れている」と解釈するべきです。

 

ポタージュは?

 

さて、ここで一つ疑問がわいてきます。それは、ポタージュには”飲む”、”食べる”のどちらの動詞を使うべきかということです。結論から言うと、potageにはsoupeと同じようにmanger”食べる”という動詞を使うのが一般的です。

が、しかし。そもそもpotageの語源はpottumやpottazという言葉から来ています。pottumやpottazは、本来水差しのような液体を入れる容器です。それが古いフランス語では「(液体を)飲む」という意味や、現代のフランス語にあるようなpot(鍋)という意味になったのです。やがて、potの中で様々なものを合わせて煮たものをpotageと呼ぶようになりました。一つの鍋の中でざまざまな食材をごった煮にするということから、今でもpotageには食べ物の意味と、さまざまなものの寄せ集め(多くは無用なものの寄せ集めに対するネガティブな言葉)という意味で使われます。

さて、potageの原義が「飲む」であるとすれば、potageという単語に使われるべき動詞はmangerでなく、boireではないでしょうか?

…まぁ、みんなmanger du potageと言っているので、それが正解です。僕のたわごとは軽くスルーしてください(笑)

 

ちなみにpottum(水差し)が転じて「飲む」の意味になったのは古フランス語だけではありません。例えばスペイン語でもpotarは現代でも「飲む」という意味として使われることがあります。更にスペインでは飲みすぎることによって生じる「嘔吐する」も、同じ動詞のpotarで言い表すようになりました。出てくる吐瀉物はpoto。ビジュアル的にpotageとの関連性が無いとも言い切れないような…おえー

 

スープを飲むときもある!

 

最後に一つ覚えておいて欲しいのですが、soupeに対して使われる動詞はmangerだけではありません。滅多にありませんが、boireという単語を使う場合もあります。例えばマグカップやコップなどを使った簡易的なスープを飲む場合にboireを使うことがあるのです。フランス高速道路のサービスエリアには多くのコーヒーの自動販売機が置かれていますが、大抵その中に紙コップで出てくるスープがあると思います。僕はフランス人の友達にこのスープを指さしながら"Tu veux boire une soupe?"と尋ねられたことがあります。また、レストランでも前菜の一つとしてデミタスカップのような小さな器に入ったスープに対して、ウェイターがboireを使って何か説明していた記憶があります。おそらく、一般的な”食べる”スープと差別化して、一口にくいっと”飲む”スープであることを強調したかったのでしょう。これは英語でも同じで、マグなどで飲むスープはdrinkを、皿から頂くスープはeatを使うようです。

このように、シチュエーションによって使われる動詞が変わることがあります。これこそが言葉というものは生き物で、私たちの生活の中で絶え間なく進化しているんだなぁと思う瞬間でもあります。

 

おわりに

 

外国語を勉強するにあたって、単語の語源を調べることはとても有意義なことです。語源まで調べれば、その単語は間違いなく頭に定着しますし、派生的に周囲の単語も覚えるきっかけになるからです。また、言葉の裏側の歴史が頭に入っていれば、外国人と話すときの一つのトピックとして使うことができます。

良ければ他の語源に関する記事も読んでみてください^^

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