フランシウム87

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シリーズ・カタルーニャ┃③モデルニスモーカタルーニャの誇る世紀末文化ー

南仏を含む地中海地域、カタルーニャ地方にスポットライトをあてて書いている、シリーズ・カタルーニャ。

3回目となる今回は、カタルーニャの誇る文化、モデルニスモについてです。

モデルニスモ…あまり聞き馴染みのない言葉だと思いますが、サグラダファミリアを設計したガウディのほうは、良く知られている名前ではないでしょうか。

 

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ガウディ設計のカサ・ミラ入り口。問の講師が、まるで細胞の構造のようです。

 

 

 

 

カタルーニャの世紀末文化

 

芸術には、時代や地域によっていくつもの流れがあり、それらには名前が付けられています。

例えば、絵画であればルネサンス、ロココ、印象派など。音楽では、バロック、ロマン、ウィーン楽派など。

 

今回お話しするモデルニスモとは、こういったジャンル分けの中でも、カタルーニャ地方で19世紀末から20世紀初頭にかけて起こった芸術運動の事です。

 

モデルノ→モダンという、名前の響きから察することができるように、今までの芸術の路線から新しい(モダンな)方向に転じた、スペインの芸術を語るうえでは欠かせない部分です。

また、この芸術運動は後にも書きますが、バルセロナ人にとっては今もなお、欠かすことのできないバルセロナ人としての意識をも作り出していると思うのです。

 

それだけ重要なモデルニスモ。名前だけではイメージがしにくいかと思いますが、この時期に活躍した代表的な芸術家にアントニ・ガウディがいるという事が分かると、なんとなくイメージがつくのではないでしょうか。彼の設計した建造物はバルセロナに数多くありますが、それぞれがデザイン・コンセプト的にとっても"奇抜"で、バルセロナに訪れる観光客を楽しませています。

 

そもそも、モデルニスモで栄えた芸術様式は、同時代にフランスで栄えたアール・ヌーヴォーと類似点が多いと指摘されます。一番大きな共通点は、どちらも自然からのインスピレーションが多く取り込まれている点ではないでしょうか。

たとえば、アール・ヌーヴォーを代表する画家、アルフォンス・ミュシャの絵を見てみると、いたるところに植物や天体、自然に由来するモチーフが描かれています。また、絵の枠などは、植物のつたなどをうまくデフォルメされたもので、このデザインは現代でもいろいろなところで目にしますね。

 

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モデルニスモ芸術も同じように、自然を取り込んだ芸術作品が多くあります。

例えば、ガウディが設計したサグラダ・ファミリアでは、塔の上にトカゲやカタツムリがいたり、柱を支えているのは亀だったり…バルセロナの北に位置するグエル公園には、有名なイグアナの噴水が置かれていますし、園内の柱に刻まれている線は、ある点から眺めると遠くに広がる地中海の水面と全てがそろう…なんていう仕組みが隠されています。

 

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サグラダ・ファミリアの外壁

 

また、バルセロナの目抜き通りであるグラシア通り沿いに建っているカサ・バトリョは、別名「骸骨の家」とも呼ばれています。中に入ってみると、こんどはまるで海底を散歩しているかのような不思議な空間を体験することになります。

 

こんなかんじに、それまでの時代は建造物はあくまで建造物であったのに対し、そこにモデルニスモから来る自然のインスピレーションや、建造物に新しいコンセプトを与えたりして、ガウディは当時を代表する建築家となったのです。

 

 

ガウディのライバル

 

カタルーニャのモデルニスモを語るうえで、もう一人、忘れてはいけない人物がいます。その人の名前は、ドメネク・イ・ムンタネー

数年前まではネットで検索すると「ドメネク・イ・モンタネール」と、標準スペイン語の発音に則った表記が多かったのですが、最近は日本語であってもカタラン語の発音になっているようです。

 

ガウディに比べると、なんか親しみの持てない名前の彼ですが、彼の設計した建造物も素晴らしいものが多いのです。

 

例えば、サン・パウ病院。

ここは病院なのですが、世界遺産にも登録されているという面白い場所。

外観や装飾もさることながら、内部の設計はモデルニスモとしての様式美を維持しながらも、病院という特殊な機能性も兼ね備えた、まさにブラーヴォという言葉がぴったりの建物。ここにいくと、病気でもないのにぜひ入院したくなってしまいます。

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ちなみに、東京日本橋にサンパウというレストランがありますが、これはバルセロナ近郊にある同名のサン・パウという町のレストランが、日本にも出店したレストランです。女性シェフの、繊細で目もおなかも満足させてくれる料理には定評があります。

 

 

もう一つ、個人的に世界中でトップレベルで気に入っている建物が、ムンタネー設計のカタルーニャ音楽堂です。こちらは、世界で唯一、世界遺産の中で演奏を聞けるホールです。

何がすごいかって、このホール天井から垂れ下がっているステンドグラス!!!

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僕はこれをスペインに留学していた19歳の時に初めて見て、ほとほと感動したのを今でも覚えています。

ステンドグラス以外にも、客席上部にせり出している馬の彫刻や、舞台後方にある、上半身が彫刻、下半身がモザイク画という2D×3Dの合わせ技で攻めてくるミューズ(芸術の女神たち)、軽食スペースもホールに向かうまでの階段も、どこを見ても感動してしまうホールなのです。

しかもこのホールは、建物だけでなく演奏会のプログラムも素晴らしいのです。あまり大きな劇場ではないので、ほとんどのプログラムがリサイタルなのですが、招致される音楽家が世界のトップレベルなんです。僕はここに、幻のピアニスト(珍しい魚みたいな扱い…)ともいわれるグリゴリー・ソコロフの演奏を聴くためだけに、この半年で2回も行っています(笑)

 

しかし、これだけ素晴らしい作品(建築)を生み出した彼は、なんとガウディのライバルだったのです。つまり、彼もモデルニスモの時代を生きた芸術家の一人なのです。

 

彼の作風は、ガウディのそれとは大きく違い、ガウディが奇抜な印象を与える一方で、ムンタネーはどちらかというと正統派で装飾性残った作品を多く生み出していると思います。バルセロナに行く機会があれば、このモデルニスムの時代の2人の巨匠の作品を見比べてみるのも楽しいでしょう。

 

 

 

都市計画・景観におけるモデルニスム

 

モデルに住むの大きな担い手に建築家であるガウディやムンタネーがいたことにより、カタルーニャのモデルに住む運動は、単に絵画や彫刻などの"室内の"芸術品だけにとどまらず、家屋や教会等の"室外の"芸術品が多く作られることになりました。

また、ヨーロッパでは地震という自然災害が少ない事も幸いして、それらの建築は今でも形よくその姿をとどめています。

 

つまり、こういったカタルーニャ独特特異性のある建物が街中に長くあると、次第にそれらはバルセロナのシンボルともなり、バルセロナ人たちにとってなくてはならない、欠かせないものとなってきたんですね。もちろん、これらの建造物は世界中から人を寄せ付ける観光資源でもあるので、バルセロナ人たちは一層大切にします。

 

また、こういった芸術作品というのは、バルセロナの人たちの生活の質を豊かにするのです。つまり、バルセロナに限らず南仏というのは気候に恵まれている場所ですので、そこの住民は北の厳しい気候の人たちと比べて多くの時間を外で過ごすことになるのです。それは、たとえば道をぶらぶらしたり、バーで一杯ひっかけながらサッカーの話をしたり。南仏の典型的な時間の過ごし方です。

 

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すると、必然的に、彼らにとっては家の中の家具や絨毯なんかを気にするのと同じように、家の外の事にも気をかけるようになるようなんですね。インテリアに対するエクステリアは、彼らにとって自分の室内の延長線上に存在しているのです。

 

また、それ以外にも前回の記事で書いたように、抑圧されてきたカタルーニャ文化を再興するといったムーヴメントも織り交ざってきます。

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Home sweet home.

自分たちの住みよい環境を長く整備してきたことによって、今でもバルセロナの人々にとって、バルセロナの街は住みよい街であり続けるという仕組みです。

 

 

おわりに

 

バルセロナと言えばガウディ。みたいに、一問一答式のような感じで結び付けられてしまう、この2つのワード。でも、バルセロナとガウディを結び付けているのはモデルニスモというワードですし、ガウディ以外にもモデルニスモの重要な芸術家というのはたくさんいます。

モデルニスモという単語をキーワードとしてバルセロナを散策してみると、カタルーニャの深くて美しい芸術文化が発見できるはずです^^

 

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