フランシウム87

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フランス語┃onとhommeの深い関係

フランス語を勉強し始めた僕の目に、とても奇妙に映った単語。

それは”on”です。

onというのは、活用形では三人称単数の場所に収まり、しかし意味合いは複数の人を指す場合があります。

 

なぜ、私たちカフェから出る時に"Nous y allons!"と言わずに"On y va!"と言うのでしょう。…そもそも、このonって、いったい何者…?

 

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奇妙な単語、on

 

onというのはpronom personnelの一つで、je, tu, il, elle...と同じように主語になります。

意味は「私たちは」といったごく身近な概念から、もっと範囲の広い「人は」という意味合いで使われることもあります。

前者の場合、先ほど例に出した"On y va!"が当てはまりますね。「行きましょう!」と言う文の主語はnous、つまり「私たち」です。

後者の例では辞書に良い例がありました。"On est tous égaux devant la loi."「人は法の前ではみな平等である。」ここでのonは、「私たち」に限定されず「人は」と訳されます。

 

 

 

onのニュアンス

 

フランス人がonを使うときには、2つのイメージが背後にあります。簡単に言うと、自分が一般他者を代表してonを使う場合と、自分という存在を後ろに隠して一般他者の代弁としてonを使う場合です。これについては、また改めてonについて詳しく書きたいと思っています。

ここで大切なのは、これらに「他者」というイメージがついているという点です。もし、これらの人物像が指定されていた場合、前者はnousになり、後者はilsもしくはellesになるからです。

特に正確に人を指定しない、こういった時にonは非常に役に立つのです。

 

 

 

hommeとは

 

hommeと言う単語は、日本でもよく目にするのではないでしょうか。

"parfum pour homme"と書かれていたり、ファッションの場では好んで使われる単語です。

意味は「人間、男性」。現在、私たちは男女差別のない社会を目指す時代を生きていますが、言語が形成されたころは、男性と言うのは女性の上位にあったので、「人間」という大本の言葉が「男性」を指すようになったのですね。これはフランス語に限らず、多くの言語でも見られることです。もし、このまま男女の性差が小さくなり、ついには消えてしまったら、男性も女性も"homme"という一つの単語で表現されるのかもしれません。

男性が「人間」という言葉から進化したのに対して、女性は「生命」ということばから進化したという説もあります。また男は最初の人であるアダムが「土=humus」から作られたという神話に由来しているという説もありますが、定かではありません。因みにhumusは現代のフランス語では「腐葉土」という意味で普通に使われています。最後のsまで発音します。

 

 

 

起源はラテン語

 

他のフランス語でもよくある話で、onとhommeという二つの単語の起源をさかのぼるとラテン語にたどり着きます。

 

関係ないのですが、「語源」はフランス語で"étymologie(f.)"と言います。僕は語源を考えるのが大好きなので、日常会話でも使う頻出単語です。同じように語源を愛する人には、ぜひ覚えておいてほしい単語の一つです。

 

話を戻して、そのラテン語"homo"、意味は「人間」です。英語の"human"の語源でもあります。同じスペルでギリシャでhomoは「同一の」という意味になります。例えば、同一の性を愛する、つまり同性愛者のことをホモセクシュアルと呼ぶようになったのには、ここに理由があります。理化学の世界ではギリシャ語はがよく使われるので、「ホモ」という言葉はこう言った分野ではよく見るのですが、ラテン語のような「人間」という意味はありません。(ノンホモ牛乳は人間とは関係ありませんね)

 

さて、このhomoというラテン語の単語からonとhommeという2つの単語が生まれたのです。進化の経緯を比較してみましょう。

 

homo → hom → om → on

 

homo → hom → homme

 

興味深いのが、hommeのほうではいつの日からかmが2つ付いたのです。一方でonのほうは時代を経るにしたがってより簡略化されているのが分かりますね。

これは、hommeがonよりも上位に位置する言葉だとみなされているからです。つまり「人間」という発達した生き物を意味する単語のほうが、onという抽象的な単語よりも大切だということで、より文字数が多く長い単語にするためにmが2つもつけられたのです。文字数が多いほうが、言葉に重みが出るんですね。

対して、onは主語にも使われるほど登場頻度が増えたので、より簡単に発音・記述できるように短くなっていったのです。

 

francium87.hatenablog.jp

 

onは三人称単数として働く

 

onは、「私たち」「人々」といった複数の人物を指す場合があるにもかかわらず、活用は三人称単数に収まります。元がhomoという「(一人の)人間」からきている単語だということを知っていれば、なんとなく理解できるでしょう。

しかし、古くはonが複数の人を指す場合は活用も複数人称だったのです。

おもしろいことに現代のフランス人の会話を聞いていても、Onの後に複数人称の動詞の活用を使う場合があるのです。例えば、On viendront demain.(= Ils viendront demain.)もちろん、これは文法的には間違った文章です。しかし、言語というものは絶えず進化しているということ、それからonの性数一致が過去には存在していて現在にも登場してきているということを考えると、onの後に動詞の複数人称の活用形が正式に使える日がいつかやってくるのかもしれません。

 

 

 

Nous y allons と On y va

 

さて、冒頭で出てきたこの2つの文ですが、日常会話で「行きましょうか」という場面で出てくるのはOn y vaのほうです。「行きましょう」というのを、「私たち」に対する命令文としてとらえ、Allons-y.と言う場合はあります。つまり、日常会話で頻繁にでてくるのはOn y va.とAllons-y.ということになります。

 

なぜ、Nous y allons.はあまり使われないのでしょうか。

答えの一つは、この文が他の文より長いという点です。試しに発音してみてください。Nous y allons.が一番長いですよね。

日常会話と言うのは、とにかく簡略化されるものです。なので、Nous y allons.というのは他の2つの文に比べて使われる機会が少ないのです。

 

さらに、先ほど話したように、onは他の人の代弁として使うこともできます。私個人の希望・願望はひとまず置いておいて、ここにいるみんな=onを主体として発言することができるのです。これが、nousだと、私が率先している感じがしますね。あす、前線に向かおうとしている分隊長が"Nous y allons demain!"っていうシーンが想像できます。

 

それと、nousにすると「私たち」がより明確になるんですね。"Ils y vont en voiture, alors que nous y allons à pied." 彼らに対して「私たち」が明確に説明されています。

 

とにかく、「行きましょうか」くらいの軽いノリ&相手の意向を伺う場合は、自己主張を抑えたonを使うのが無難なうえ、言葉数も少ないので簡略化されていて使いやすいのです。

 

 

 

外国語の丁寧語

 

よく、日本語の特徴として「人を敬う敬語がある」点を挙げる人がいます。

果たして、それは日本語だけの特徴なのでしょうか。

確かに、日本語には尊敬語・謙譲語・丁寧語などがあり、かなり明確に身分の違いを言葉の活用で表すことができます。

 

しかし、このonのように、自分の意見を抑えて相手の意向を知るために使う、なんていう用法を知ると、外国語にもしっかりと相手を敬う言葉遣いがあるのだということに気づかされます。言い方や言葉選び一つで、相手に伝わる自分の意図が変わってしまうなんて、なんか怖いようでもありますが、そんなところも楽しみながら語学学習ができるといいですね^^