フランシウム87

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外国語の尊敬語

多くの人は中学校で英語を勉強したと思います。

中学生になれば、自然と目上の人に対して丁寧な言葉を使うテクニックが身についているころ。そんな時期に英語を勉強し始めて、一つ、こんなことが気になりませんでしたか?

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mokuji

 

 

 

英語で敬語はどう表したらいいのだろう?

 

英語には、文法的に見て敬語というものがありません。

言い回しなどを駆使して、相手のことを配慮するという形で「尊敬」の意を表すことはできるようですが、日本語のように動詞の形を変化させて~というテクニックはないようです。

 

しかし、当時の僕にはそんな高等なテックニックを知っているわけがなく。さらに当時の英語の先生が「アメリカでは仕事が終われば上司とでも友達感覚で飲みに出る」とかいう、バイアスがかかりまくりのこぼれ話をされたため、完全に外国語には敬語がないと考えていました。

 

もちろん、海外の言葉と言えども尊敬を表す方法はあります。確かに英語の先生が話していた通り、仕事での人間関係は日本ほどきつくはない場合もありますが、だからと言って言葉遣いが友達感覚であるとは言い切れません。

 

 

 

フランス語で敬語とは

 

僕のブログを見に来てくれている人の多くは、何らかの形でフランス語に興味があると思うので知っている人も少なくないとは思いますが、ちょろっと簡単にフランス語の敬語の仕組みを説明します。

 

フランス語など、ラテン語から派生した言語(スペイン語、イタリア語など)では、とても豊富な動詞の活用形があります。それは、現在・過去・未来などの「時制」と、一人称・二人称・三人称などの「人称」の2つの要素が組み合って決定されます。

例えば、ある一つの「現在形」には「一人称単数・二人称単数・三人称単数・一人称複数・二人称複数・三人称複数」の6パターンの活用があります。

そして、フランス語ではその中で「二人称複数」の動詞の形を用いると「尊敬語」になるという文法の決まりがあるのです。おもしろいでしょ^^?

 

例えば、日本でも有名なフランス語のフレーズとして「コマンタレブー?(お元気ですか?)」というものがあります。このフレーズの中の動詞は、実は「二人称複数」の活用が使われているため、ここに「尊敬」の意が込められている、つまり目上の人に対する一文であるということが分かるのです。

お元気ですか?を友達感覚の訪ね方にすると、「コマンチュヴァ?」という全く違う形の文章になるんですね。こうした動詞の活用の違いを利用して敬語を作るのが、フランス語のやり方です。

 

 

 

お隣のスペイン語では?

 

スペイン語も動詞の活用を使って敬語の文章を作り上げることができます。

しかし、フランス語と全く同じというわけではありません。スペイン語の場合は、「尊敬」を表すのは「三人称単数」と「三人称複数」の活用であると決められています。同じラテン語派生の言葉なのに違いがあるのですね。

 

もう少し深く掘り下げてみると、フランス語では「二人称複数」しか使えないため、敬語の対象が単数なのか複数なのかわかりません。敬語の対象がとある人物1人であっても、「二人称複数」を使わなければいけないからです。それに対して、スペイン語であれば「単数」「複数」それぞれ敬語の対象の人数によって使い分けることができます。

 

 

 

英語にも残っている動詞の活用の跡

 

「三単現のs」という言葉を覚えているでしょうか?「三人称単数現在形のs」の略なのですが、これは一人称を主語とした I playが、3人称を主語にすると He playsとなって、動詞の最後にsがつく文法を意味しています。

なぜ三人称単数現在形にだけsがつくのでしょうか。これはフランス語などのラテン語派生語で豊富に変化していた動詞の活用の生き残りとして、今でも英語ではこの一つだけ語尾活用が残っているのです。逆に考えると、ラテン語派生語では全ての人称・時制に対して、それぞれ異なるパターンの語尾活用があるというわけです。

 

 

 

英語には敬語がない

 

しかし、フランスであるような「二人称複数は敬語になる」といったシステムはありません。英語は文法的に敬語を表す仕組みがなくなっているのです。

その代り、英語では「言い回し」を工夫することによって敬意を表すことが可能になっています。

 

 

 

スペインとフランスで見る、敬語を使うシチュエーションの違い

 

この夏の旅行で、久しぶりにスペインでゆっくりと時間を過ごすことができました。

スペインに住んでいるときには当たり前だったことでも、今こうしてフランスに暮らしていて久しぶりにスペインに行ってみると、改めてスペイン語とフランス語の違いというものに気づかされます。特に、敬語の使い方の両国の違いは印象的でした。

 

フランスでは、基本的に相手に対して敬語を使います。日本と同じ感覚です。店員さんには基本的に敬語で話します。しかし、スペインはそうではありません。例えば、スペインのバルに入れば「何飲む?」と、まるで友達のような感じで話しかけられます。これはスペイン語で「三人称単数(敬語)」ではなく「二人称単数」を使われて、「君」というポジションで扱われているということが分かるからです。バルだけでなく、八百屋さんに行っても「君」という扱いが店員さんとお客さんとの間で成立します。もっというと、大学の先生でも「君」を使って(文法上は)対等な立場になるのです。(もちろん、これがすべてというわけではなく、人によっては敬語を使うこともあります。)

フランス語や日本語で、日常的に敬語を使って話すことに慣れていると、日常的に敬語を使わないスペインに行くとちょっとしたカルチャーショックを感じるのです。外国語学習の面白いところですね。

 

 

 

英語での敬語の考察

 

あるフランス人の友人に「英語には敬語を作る文法規則がない」というようなことを話したところ、彼は「むしろ英語はすでに敬語で話されている言語なんじゃない?」と返されたことがあります。

つまり彼が言うには、youというのは、そもそも尊敬の意が含まれているのではないかということ。フランス語やスペイン語などでは、「君」という対等な立場として相手をとらえる概念があるから、それに加えて尊敬の意を表す方法が必要になったけど、英語ではそもそも「君」という対等な立場というものがないのではないか、というのです。

彼の説がしっかりとしたものではないのですが、なるほどこういう考え方もあるのか、面白いなと思いました。

 

 

 

それぞれの国の敬語

 

恐らく、スペイン人は元気で明るい、フランス人はプライドが高い、なんていうステレオタイプ的な国民性の評価には、その国の敬語の使い方も関係していると思います。今回、スペインに旅行して思ったことは、やっぱりスペインのほうが人と仲良くなるのが簡単だという事。そして、それは初対面の人でも"tú"「君」を使って会話ができるというところにあると思うのです。

言葉遣いが人間性・国民性を決めるのであれば、やはり言葉というものには気を付けて生活しなければならないのでしょうね。