フランシウム87

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フランス語のオーラル試験が難しい理由┃どんな発言にも準備が必要

DELF/DALFという試験をご存知ですか?

これはフランス教育省が認可している試験。受かれば、フランス語を母国語としない人のフランス語力を証明する資格を得ることができます。

 

さて、このDELF/DALFは、基本的に試験が4部構成になっています。

すなわち、①リスニング②文章読解③作文④オーラル の4つです。

この中でも、異様なボス感をまとっているのが④のオーラル試験。他の試験とは完全に切り離されています。数十分の準備の上、面接官の前で10~20分程度の口頭での発表・質疑応答に挑みます。

そして、このオーラル試験に苦手意識を持っている人は結構多いんですね。日本人に限らず、です。なぜなら、フランス語のオーラル試験は、英語のそれとは性格が若干違うからなのだそう。

今回は、フランス語オーラル試験の難しさの秘密について探ってゆきます。

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mokuji

 

 

文章構成にうるさい!?フランス人の気質

 

中国語や日本語だったら起承転結、英語だったらパラグラフ・ライティングのように、国によってメジャーな文章構成というのは若干変化します。変わらないのは「冒頭」と「結び」があるというところでしょうか。

つまり、その2つに挟まれた部分にはヴァリエーションがあるということです。

 

フランス人は、この文章の構成について小さいうちから学校で教わっているそうなんですね。試しにフランス人に「フランス語の文章構成は?」って聞いてみると、「テーズ、サンテーズ、アンチテーズ…」とスラスラ答えてきます。えっと…知りたいのは正確にはそこじゃないんだけど…でも、こんな難し単語がすぐに出てくるなんて、それほど学校で叩き込まれたという事なのでしょう。

 

 

大学の英語の授業で発見した「フランス語の呪縛」

 

僕は現在、フランスの大学に通っています。もちろん、フランスの大学なので大多数はフランス語が母国語の人が通っている学校です。

ということは、外国語の授業ではフランス語ではなくて英語を学びます。僕も、みんなと混ざってフランス語で英語を勉強しています。。。

 

目下、僕たちの課題は「発音」と「スピーチ」に的が絞られています。

どういうことかというと、フランス語を勉強している人ならわかると思いますが、フランス語って単語の最後の音の始末がちょっと特殊なんですね。具体的に言うと、書いてあるのに発音しないというケースがほとんどなのです。

例えば、「時」という意味の"temps"は「タン」と発音します。末尾2文字の存在をが完全に無視されています。つまり、音だけでいうと"tem"と書いても同じ発音になるんですね。

フレンチ・シャンソンで有名な「オー・シャンゼリゼ」をフランス語で書いてみると"Aux Champs-Elysées"。かなりのトランスフォームっぷりです。

 

なので、フランス人にとって「3単現のs」はかなり難易度が高いようで、動詞の末尾にsが書いてあっても、大体みんな読み飛ばします。

他にも文頭の"in"は「イン」と読まずに「アン」と読んだり、on/en/an/in/ain/einがフランス語特有の鼻母音チックな音になったり…彼らフランス人にも英語の難しさはあるようです。

 

 

「呪い」はこんなところにまで…

 

そして、もう一つの課題がスピーチ。

しょっちゅう自分で題材を探してきて、それに対する5分程度のスピーチの準備が宿題として出されます。

学期の初めに配布された先生お手製のテキストには、スピーチのための文章構成完全攻略マニュアルが書かれていました。

 

このマニュアルが笑えるのです。

なぜかというと、文章構成のお手本が、僕が語学学校でフランス語を学んだ時に習った文章の構成の仕方と全く一緒だから(笑)つまり、フランス語の文章構成を、そのまま英訳したような感じです。

 

 

Il s'agit de...

 

フランス語のオーラル試験を受ける時、おそらく大半の人は"Il s'agit de..."で発表を始めるように、と教わることでしょう。

大学の英語の授業では、"My presentation deals with..."でスピーチを始めるのよ、と先生に教わりました。

 

いざ、発表の日になると、みんなこの"My presentation deals with..."を無視して発表し始めたんですね。しかし、すかさず先生は毎回ストップをかけて「My presentation deals with...で始めるべきよ。さ、もう一回最初からやり直して。」と訂正するのです。

 

フランス語というのは、かなり「型」が重要視されていると思います。

たしかリヴァロルだったと思いますが、フランス語は明瞭な言語だ、と言った人がいました。僕は、多分これは、フランス語というものは確固とした「型」の上で構築されているからだと思うんですね。ベースがとてもしっかりしているのだと思います。

なので、そのベースから外れたものの言い方をすると、たちまちフランス人からは"J'ai pas compris.(何言ってるか)解らなかった。"と言われてしまうのです。

 

つまり、フランスで学ぶ以上、英語においても、この「型」はかなり重要な意味を持っているのです。

そうであるならば、儲けもの。なぜなら、僕はみんなと違って、フランス語を「外国語として」文章構成をつい最近まで勉強してきたわけですからね。このトリックを英語にそのまま移し替えればいい。

この作戦は見事に成功して、「導入→問題提起→スピーチの構成の概要説明→論拠・例→結論」という雛形を擦り切れるんじゃないかというくらいに使いまわし、毎回先生からは「あなたの文章構成はパーフェクトよ!」と褒められます。思惑通り。やったー!

francium87.hatenablog.jp

 

 

 

規則を守らずは、すなわち✖を意味する

 

対して、僕のクラスメートには先生の言われた通りの構成でスピーチをしたくない、不屈の反骨精神を持ったアルバニア人がいます。

こういうの、フランスでのオーラルの場面では完全にアウトなんですよね。「あなたには、とてもたくさんの課題が残っているわね…」と、毎回やれやれ…といった顔の先生。

 

つまり、フランスでオーラルの試験を受ける場合には守らなければいけない「型」があるのです。それに則っていなければ、理解されないか聞いてもらえないかのどちらかです。

 

 

これって、日本の文化に似ているかも

 

フランス語でのスピーチには、決まった「型」があるということの説明をしてきました。また、この「型」を自分のスピーチに適用するためには、いったん自分の考えを打ち捨てる必要があります。

 

これって、日本でも似たようなところがあると思いませんか?

日本の場合はスピーチという分野ではないのですが、例えば何か仕事を覚える時、自己流ではなく、まずは組織の規則を覚えるんだ、なんていう教え方をする/される場面があると思います。

僕、なんかこういうのを「滅私奉公」な印象を受けるんですけどね。「滅私奉公」というと悪いイメージを持ってしまいそうですが、前からの流れを後の世代にも伝えるには欠かせない流儀です。

とくに、伝統的な文化・芸能といった分野では、「自分を出す前に、まず真似ろ」という教え方が根強く残っていると思います。

 

フランスに話を戻すと、フランスも言語という部分で「滅私奉公」的な教育をされているのではないかな、と思うんですね。だからこそ、フランス人は自国の言葉に対してプライドが高い、なんて周りから言われます。

少し前、フランスで綴りの一部改変が決定されたときなんかは、一大センセーショナルなニュースとなって巷を駆け抜けました。日本なんて「ら」抜き言葉から始まって、日本語の変化はめまぐるしいのに、そんなにみんな問題意識を持ちませんよね。それが日本語の特性だとも思うのですが。

francium87.hatenablog.jp

 

郷に入れば郷に従え。

フランスで大事にされている文章構成をしっかり守るということは、とても大切なことなのです。逆に言うと、文章構成がきちんと「型」にはまっていると、試験での点数がかなり良くなります。面白いほど変わります。

 

 

おわりに

 

フランス語のオーラル試験が難しい理由は、フランス語には確固とした文章構成の規則が存在するからです。それを押さえてしまえば、こちらのもの。

フランス語ネイティブであれば、お決まりの「型」の向こう側に「自分らしさ」を持ってくることができるのでしょうが、残念ながら僕たちはそうではありません。少し窮屈ですが、「型」にはまった方法で話すことで、オーラル試験の難しさが小さくなると思いますよ^^