フランシウム87

南フランスに住む日本人学生が発信するブログ。

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プロテスタンティズムと反ワクチン

ワクチンが人のために有益なのか、それとも有害なのかといった議論は、いつになっても終わることがありません。

それは、ワクチンの中に入っている物質がやり玉に上がって議論されることがほとんどですが、中には宗教的な違いが原因なこともあります。

日本ではあまり意識されることのない宗教の違いと、ワクチン接種率。今回は、この一見すると何のつながりもないような2つのことについて考えていきます。

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ワクチンの何がいけないのか

この記事では、ワクチンが体に良いか悪いかを説明することを目的としていません。

ここで書くことはあくまで、どういった要因がワクチンの安全性の議論を生んでいるかを紹介するのに留めます。

 

まず、ワクチンにはウイルスなどの病原体(全体、もしくはその一部)が含まれているので危険だということがあります。ワクチンがイギリス人医師ジェンナーによって欧米で大々的に接種され始めたのが18世紀末。この時に使われたものは、牛から単離された牛痘ウィルス。これを人間に感染させることで、天然痘という致死率の高い病気に対する抵抗を人間に持たせることに成功しました。これにより、当時恐ろしいほど高い致死率で恐れられていた天然痘から、多くの人の命が守られることになるのです。

しかし、当時の人々は、牛痘ウィルスを接種することで牛になってしまうのではないかと危惧していたようです。当時の風刺画を見てみると、予防接種を受けた人の体から小さな牛が"生えて"います。

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牛になることはないとしても、病原体を体に入れるというのはなかなか勇気のいるものです。しかし、天然痘はワクチン接種の甲斐あって、1980年には世界中から撲滅されたとWHOが宣言しています。ちなみに、撲滅は自然界でされたのであって、研究所にはまだ菌が保管されているので、人為的に復活させることが可能です。(菌を保管している研究所はアメリカとロシア、それと中東情勢が緊迫したときはISも保菌している可能性が取沙汰されました)

 

2つ目の理由は、ワクチンに含まれている物質に問題があるという意見です。保存料や、効果を大きなものにするための薬剤等、ワクチンの中には様々なものが含まれています。そうしたものの中には、健康を害するものが入っているという報告もあるので、ワクチンの安全性が疑われています。

 

そして最後の理由が宗教的なものです。

 

ワクチンは宗教の”敵”?

 

宗教的な反ワクチンの考えは、ワクチン自体に問題があるわけではなく、ワクチンの存在意義そのものに問題があるのです。

日々宗教を意識することが少ないと言われている日本人にとってはあまり馴染みのあることではないのですが、海外では宗教によってタブーとされていることがたくさんあります。有名なところでは、ローマカトリック教会は避妊具の使用や避妊手術を認めず、タブー視しています。理由は、生命を作るのは神のみが許された行為で、人間が勝手にコントロールしてはいけないからです。(ちなみにローマ教皇は昨今の世情を鑑みて、エイズ感染を防ぐための限定的な避妊具の使用は認めているそうですが、根本的に避妊に反対であることは変わりません)

 

生命を作る力をコントロールしてはいけないのですから、もちろん生命の”終わり”をコントロールすることも認めない考えがあります。これが宗教による反ワクチンの考えです。

 

プロテスタント

 

特にプロテスタントには、人間の命は神に委ねられていると考えているため、人為的な方法で死を免れる方法を良しとしない考えがあります。この根底には、プロテスタントの誕生が、聖職者たちのせいで腐敗しきったカトリック教会への「抗議」だったので、聖職者主体の人為的なものではなく、聖書、つまり神の福音に個人の生命が委ねられていると考えます。

これを言い出したら、命を助けるためのあらゆる医療行為が許されなくなるような気がしますが…現代では、医療行為が良いか悪いかという判断基準は、個々人によって大きく変わるようです。しかし、ワクチンに関しては反対の人が多い傾向にあり、これがワクチン接種率を高くしようとしたときに、障壁の一つとなることがあるのです。

実際に、フランス南部のワクチン接種率の低さの原因は、同地域のプロテスタントの数の多さに原因があると考えられています。まぁ、それ以上に多くの人が住んでいるパリのほうが、もっとワクチン接種率が低いんですけどね。

 

(上図:2012年のプロテスタント福音派の寺院の数、下図:2017年のワクチン接種率)

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おわりに

 

このように、日本ではあまり話題に上らない宗派の違いが、フランス現地での生活レベルでの違いを引き起こしていることが多々あります。

もちろん、どの宗派が良い・悪いと言いたいわけではありません。そうではなく、フランスの医療制度、選挙の投票、教育機関等の問題や結果を、宗派の分布に照らし合わせてみると、意外なところから興味深い結果が出てくることがあるので、フランスのニュースを読み解く際にこうした宗派の違いについて興味を持っておくと面白いと思います^^