南仏のザハ・ハディッド見学┃新国立競技場の旧デザインを提案した建築家
世界的な建築家である、ザハ・ハディッド氏が亡くなって、2か月が経ちます。
東京の新国立競技場旧案を提案した建築家ですが、その膨大な費用が問題視されて、日本でも時の人になった女性です。
彼女の作品は世界中に存在しているのですが、僕の住んでいる南仏のモンペリエ市にも一つあるのです。
先日、試験期間中に家に缶詰めになっていて、半ば発狂しそうになったので、友人を誘って彼女の作品を見に行ってみました。
ザハ・ハディッドとは
イラク出身の女性建築家で、史上最年少で建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞を受賞しています。
現代建築家としてとても活躍した人物で、そのすごさは彼女の遺した作品から窺い知れます。新国立競技場の当初のイメージをみた人ならわかるでしょう。
そう、彼女の作品は変わっているのです。
ただ"変わっている"だけで済ますことができないのが彼女の建築のすごいところ。彼女の構想案には、例えばバイオロジーと密接にかかわったものもあるので、多方面の分野にも影響を及ぼした人なんです。
そんな彼女が南仏のモンペリエに作ったのはpierres vivesという建物。
pierres vives~命ある石~
pierres vives(ピエール・ヴィヴ)というのは、ルネッサンスの作家・ラブレーの造語です。
「命ある石=人間」という意味合いだそうで、パスカルの言葉「人間は考える葦である」に似た印象を受けます。
名前については以前のエントリーにまとめてあるので、ご覧ください。
外観
トラム1番線のSaint Paul駅下車。そこから徒歩10分ほどでpierres vivesに到着します。
到着して真っ先に印象に残るのは、その異形っぷり。周りの景観にことごとく溶け込んでいません。
外観、白い部分のコンクリート。正確にはアイボリー調で、これは南仏でメジャーに使われている石材calcaire coquillier(貝殻石灰岩)と同じ印象になっています。
ちなみに、このcalcaire coquillierは南仏の家やモニュメントなど幅広いものに古くから現在まで使われている石材の一つで、よくよくみると家の壁にサメの歯や貝殻の化石が見つかるのです。
外観にはアイボリー調のコンクリートの上を、流線が幾筋も走っています。
生物の多様な動きというよりは、無機質で秩序を感じられる線の動きですね。色彩からでしょうか、ちょっとしたレトロ感も感じられて、どことなく初期のスターウォーズを彷彿とさせるフォルムです。
流線の後ろはガラスになっていて、ここから建物内部に採光がされている仕組みです。
前方の傾斜はかなり鋭く切り込まれていますね。"人工物"という感覚をつよく受けます。
友「スケボーで滑りたくなるね。」
角度を変えてみてみましょう。今までは建物を前方・側面から見ましたが、これを背後から観察すると全く違った印象になることに気づかされます。
どうでしょう。あれだけ動きが感じられていた外観が、ただの箱のようになってしまいました。なんていうか、エアコンの室外機です。
つまり、この建物に"動き"を与えているのは、側面に配置された凹凸なんですね。ともすればデットスペースになってしまい、実用面から考えると無駄になってしまいそうなものを贅沢に外観のモチーフに使う。うーん、芸術的です。
面白い点は、この凹凸を実用的に配置している部分。
それがこちら。入口の屋根は突出した建物の一部が担っています。ピロティーみたい…だけど、柱が使われていないのでキャンチレバーというのでしょうか。僕は建築の専門家はなく、ただすきでいろいろな建築物を見ているだけなので、用語に自信はありません。あしからず。どなたか詳しい方、ご教授いただけると嬉しいです。
ちょっとおもしろいなーと思ったのは、入口手前にこの建物の形状に対応したベンチがあったこと。子供たちが無邪気にベンチの上を走ってあそんでいました。
内観
どうでもいいことなんですけど、建物の「外観」の対義語って何なんでしょう。「内観」を辞書で調べると、建造物以外のものに関する説明がのっているのですが…
それは置いておいて…さて、建物内部に入ってみましょう。On va attaquer!
この建物は、archives(古文書保管所)とbibliothèque(図書館)が入っています。
どちらも市民に開放されているので(archivesは使用動機が必要)、平日の夕方でも多くの人がいました。
内部は窓からの採光に加えて、蛍光灯が使われているので、白く明るく清潔感のある空間を演出しています。
1回には受付があり、ここからすぐにエスカレーターをつかって2階へ移動。
エスカレーター下のスペースは明るく広々としていて心地がよさそうなのですが、テーブルと椅子があるだけ。もっと売店なんかを置いたらお気に入りのスペースになりそうなのに。
archivesの入り口。各セクションの名前は独特のフォントで書かれています。
んー、僕がこの建物の中で一番気に入った場所。
自然光+人工照明が流線の中でまじりあって、ちょっとした異空間を作り上げています。写真だとよくわかるのですが、明かりは床にも反射して、なんだか宇宙船の内部に入った気分。
建物の内部に居ながらにして、3つのブロックが視覚的に交わっているのが見えるのが面白いですね。ソニックのゲームステージみたい。
bibliohtèqueとmédiathèqueの入り口ももちろんこのフォントで示されています。
これは図書館内部の一部。
ここからわかるように、建物の内部空間は外観と同じような斜面の壁で区切られているんです。どうやらこのデッドスペースはいまのところ活用できていないよう(笑)
で、この図書館が意外と秀逸で、子供向けの本がメインかなーなんて思っていたら、建築関係の本がたくさん置かれていたのです。
友達と一緒に熱心に読み漁る僕。連日化学を勉強していたので、ほかの分野の知識の刺激を必要としていたんですね。あまりにも熱心に閉館まで本を読み続けてしまったので、ここから先の写真は撮っていません(笑)っていっても、この建物はこの図書館で終わりです。
外部環境
写真を撮り忘れてしまったのですが、このpierres vivesのすぐ隣に、あたらしく規模は小さいのですが、近代建築感丸出しの別の建物が建てられたんです。
しかも、色のトーンやテクスチャーが全く異なるもの。
これのおかげでpierres vivesの存在はより浮いた感じになってしまい、なんかこの地区って主張しすぎじゃね?感が否めません。
また、pierres vivesが建てられている地区って、モンペリエ市のはずれなんです。
フランスの、どこでも大きな町であれば共通して見られるものとして、町はずれに建設されたアラブ人街というものがあります。
アラブ人街というと語弊を招きそうなのですが、正確に言うと移民層受け入れ地区です。いや、でも国籍の異なる移民というわけではなく、フランスに帰化したフランス国籍を持っている人だから…ええっと…ここらへんの説明は長くなるのでまた今度。
まぁ、簡単に言うとゲットーです。批判ありそうですが、本質的にはそういう地区です。
で、pierres vivesは、そういった地区のすぐ隣に立っているんですよ。世界の建築家の作品が、ゲットーのお隣さん。
いや、わらえないですよこれは。モンペリエ市の完全な失策だと思うのですが。
pierres vivesの入り口から望んだ風景はこんな感じです。
このpierres vivesを、この地域の活性化につなげるために計画されたものならいいですが、わざわざ郊外にアラブ人居住区を作り上げて、その近くに文化施設を作るというのはどうなんでしょう。そりゃ、モンペリエ市民、ひいてはエロー県民から大きな建設反対運動があったのも頷けます。
ちなみに上の写真で遠方に見えるアパート。ほぼすべての部屋がアラビア語を話す人で埋まっています。
今日もこの界隈に行く用事があったので別角度から写真を撮ってみました。左手に見える大きな建物も、トラムの線をまたいでいる建物も、ぽぼすべてがアラブ系の人用の家です。ここではフランス語は聞こえません。
まぁそれはいいとして、このpierres vives、時間の経過とともに外的要因での劣化が激しい。
建物自体は、素朴でありながら明るく清潔感あふれていて美しいんですけどね。
以上、bantanのザハ・ハディッド建築観察レポートでした!