フランシウム87

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フランス語の否定文の謎┃なぜne ~ pasで挟むのか?

フランス語の否定文というのは、ちょっと特殊な形をしています。

なぜなら、否定文の動詞を"ne""pas"という、2つの単語で挟まなくてはいけないからです。

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mokuji

 

 

わざわざ挟む必要がないように思えるけど…

 

日本の義務教育を受けている人であれば、一番なじみ深い外国語といえば英語でしょう。

英語の否定文の場合には、否定を示す単語は1つ、つまり"not"を使います。

 

I am not a student.

 

be動詞(この場合は一人称単数につくため"am"に活用)のすぐ後にnotが置かれます。

 

では、フランス語の兄弟分(同じラテン語を母体としている)のスペイン語やイタリア語などではどうでしょうか。どちらも同じようなものなので、簡単にスペイン語を例に挙げます。

 

Yo no soy estudiante.

 

ser動詞(この場合は一人称単数につくため"soy"に活用)のすぐ前にnoが置かれます。

 

つまり、英語も、フランス語の兄弟分たちも、否定を表す単語は前後どちらかに一つだけで十分なのです。

 

 

 

フランス語はサンドウィッチがデフォルト

 

一方、フランス語では動詞ne ~ pasで挟むことによって否定文が完成します。

 

Je ne suis pas étudiant.

 

前に紹介した2つの言語の例文よりも、一気にカラフルな印象になりましたね(笑)

パッと見た感じ、なんだか面倒くさい文構造のフランス語。いったい、どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。

 

 

 

基本はneが否定の意

 

昔のフランス語、つまりラテン語の性質が今よりも多くの残っていた時代のフランス語は、音もラテン語のようにはっきりしたものでした。現在、私たちが思うようなセクシーさはなく、もっとしっかりと発音される言語であったようです。

その時代では、否定を表す単語はneの一つだけでした。これを「ネ」もしくはアクセントをつけて「ネー」と発音されていたようで、しっかり聞き取れていたんですね。しかし、時代を下がるにつれて、フランス語の発音は、独特のボソボソそした不明瞭なものになってゆき、neも「ヌ」の音になりました。

 

すると、今までは聞き取れていたはずのneが、速く話したり周りが騒々しいと聞き落してしまうといったような困ったケースが続発!そこで、フランス人は新しく動詞の後にも聞き取りやすいpas「パ」を加えて、この文章は否定文ですよ~というのを強調し始めたのです。これが、サンドウィッチ構造の始まりです。

 

 

 

pasの原義

 

pasって、否定文を作るときに登場してくる単語ですが、同じ形でpas「一歩」というものがありますよね。

これは単なる偶然ではありません。もともと、サンドウィッチ構造が生まれるよりも前から、neとpasを組み合わせる技法は存在してたのです。

例えば 、Je ne marche pas.「一歩も歩かない」 一歩もという強調表現ですね。

 

他にも、、、

Je ne bois goutte. 「一滴も飲まない」(goutte「滴」の意から) 

Je ne mange mie.「少しも食べない」(mie「パンのかけら、パン屑」の意から。現代ではmieにあたる言葉はmietteになっている)

などがあります。まだ興味があれば否定文 - 北鎌フランス語講座 - 文法編でも少し紹介されているので、を参照すると面白いと思います^^

 

このなかで、ne ~ pasだけが普遍的に使われるようになり、現在ではすべての否定文に適用されることになったわけです。

 

 

 

強調否定について

 

もうひとつ、おもしろい例をあげましょう。

chose「物」はラテン語では"rem"というのですが、これが現代フランス語では"rien"です。

「言わない」という一般の否定文は Je ne dis pas.となりますが、「何も言わない」と強調したい場合は Je ne dis rien.と言います。

そうです、勘のいい人なら気づいたかと思いますが、ne ~ rienというのは、ne ~ pas 以外のサンドウィッチ構造で現代に残っている数少ない例の一つなのです。「ne ~ rien 何もがない」という仕組みなのは、ne ~  pasの時と同じですね。

 

もう少しわかりやすい例だと、ne ~ personneがありますね。これは「人がいない」という原義で、「人っ子一人いない」という強調された文章としてとらえることができると思います。

こういった現代に残る強調構文の例は、ほかにもne ~ jamais や ne ~ guèreなどがあるので、少しずつ知識として蓄えてゆくと、作文などを取り組むときに有利になるでしょう。

 

 

 

neだけが使われる否定文があるってホント?

 

聞き取りにくいがゆえに、単独で使われることがなくなってしまったne。

しかし、これが単独で使われるというケースが存在するのです。どこまでややこしいんだ、フランス語…。

pasを加えるサンドウィッチ構造以前の形、つまり古い言いまわしをにおわせる言い方ということですね。この技が使える動詞は限られています!

 

pouvoir + inf.

cesser de + inf.

oser + inf.

savoir(conditionnel) + inf. もしくは savoir + interrogation indirecte(間接疑問)

(inf.はinfinitifの略)

 

この4つのみ!細かい規則はここで説明しません。なぜなら、使えなくても(ne ~ pasで書いてしまっても)問題ないことだからです。使えたら、美しいフランス語が使えるというまでのものです。こういうところで、フランス人は対面している人の教養をチェックしているんですね。

 

 

neの欠落~時代はpasの独壇場~

 

neが聞き取りにくいという理由でpasが加えられたという話をしました。視点を現代に移してみると、もはやneはお払い箱になってpasだけが発音されている時代にあるといえます。

 

そうです、巷で話されているフランス語ではneが使われていないことが多い(っていうか殆ど)のです!!!

 

例えば、Je ne sais pas.は、友達同士で話す場合はまずこの形にはなりません。

Je sais pas.になります。(さらに悪化すると、「ジュ・セ・パ」→「シェ・パ」という形骸化した発音になってしまうのです)

Je ne mange pas. Je mange pas.

Je n'ai pas vu. は J'ai pas vu.

 

しかし、これはlangage familierといって、口語の場合のみに使える技です。いちいちneを言わなければ話しやすくなりますからね。

書き言葉の場合はneを省略することはありません!作文でneを省略したら減点になってしまうので、気を付けてくださいね。

 

もう少し掘り下げて言うと、plusを使った否定文ではneは省略しなくてもよいでしょう。次の文章を見比べてください。

 

Je mange plus.「もっと食べる。」(肯定文)

Je ne mange plus.「これ以上食べない。」(否定文)

 

(否定文)のほうからneを省略すると、(肯定文)と全く同じ形になり、意味は真逆のことなのに見分けがつかなくなってしまいますね。フランス人は本当に器用なことに、(肯定文)のplusを「プリュス」、(否定文)のplusを「プリュ」と言い分けて、neを省略しているのですが、これもすべての人に当てはまるというわけではなく、酷くグレーゾーンの広い部分なのです。

なので、私たち外国人は、plusを使った否定文章の場合は、わざわざneを省略する必要は無いと思うんですよね。

 

 

 

まとめ

 

フランス語というのは、古くラテン語からの流れをくむ言語で、時代の移り変わりとともに多くの文法が形を変えて現代まで伝わっています。

フランス語の否定文の謎は、本来否定を表していたneが聞き取りにくくなり、その問題を解決するためにpasという聞き取りやすい単語を加えて動詞をサンドウィッチすることになったのです。

そして、現代では口語体に限り、元来否定語として存在していたneを抹消するという新手の暴挙に出ているわけですが、そこはやはり高貴なフランス語、書き言葉ではこの傍若無人な扱いは認められていません。

 

日本語でも「ゆめゆめ~じ」で「全く~しない」という、古文の流れをくむ言い回しがあるのと同じように、フランス語にもちょっと難しい言い方があるんですね。

一口に否定文と言っても、歴史の中でフランス語がどのように変わってきたのかを調べてみると、なかなか面白いものです。^^