フランシウム87

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契約を結ばない婚姻┃フランスのPACS(民事連帯契約)について考えてみる

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下流老人」という言葉を知っていますか?僕はこの言葉を最近知りました。

日本の根底に渦巻く暗い問題が具現化したようなもので、恐ろしいものだなぁと調べているうちに、原因の一つは日本の少子化という事が分かりました。出生率というと、注目するべきはフランスです。フランスは日本とは違い、人口が先細りしない数にほど近い出生率が維持されているのです。といっても、最初からフランスの出生率が良かったわけではありません。

なぜフランスは出生率を改善できたのでしょうか。そのヒントはPACSにあるようです。

 

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PACS(民事連帯契約)は人口問題の打開策!?

 

フランスと聞いて「愛の国」というイメージを持つ人は多いと思います。

実際、フランス人は人を愛するという事を良く知っていると思います。

しかし、いくら愛を知っていても結婚となると話は別。フランスは長らくカトリックの国であったため、結婚という夫婦間の契約に関しては比較的厳しい国でした。宗教的な要素が関係しているので、一度結婚したら原則的に離婚は認められません。

古い社会体系だったらそれでも良かったのでしょう。男と女は、ある程度の年齢になったら結婚し、子供を持ち、一生家族として暮らす。

しかし、近代になってひとの生活は多様化していきます。女性の社会進出も活発になりました。より充実した人生を求めるために、結婚は一生に一度のものでなくても良いのではないかという考えも出始めたのです。

旧来の結婚という契約は、次第に重荷になってきました。こうして結婚する男女が減少し、フランスの出生率は一時低下していったのです。

 

そこで登場したのがPACS。「パクス」「パックス」と読みます。日本では民事連帯契約、あるいはパートナーシップ制度として紹介されています。

PACSのすごいところは、簡単に離婚ができるという事。「事実婚」とも訳されるように、「結婚という契りはしていないけど、事実的に結婚したも同然の関係ですよー」というのを認めた制度ともいえます。ですので、正式な夫婦の契りを交わしていなくても、遺産相続などの権利も配偶者に与えられ、保護されます。現代の愛を知るフランス人にとって、PACSという制度は都合が良かったのでしょう。この制度が認可された90年代から、フランスの出生率の減少に歯止めがかかり、そこから現在に至るまで横ばいの状態が続いています。

 

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青線がフランスの出生率。今の人口を維持するためには2.07という数字が必要なので、フランスはそれには若干到達していないようです。ちなみに日本は1.5を若干下回っていて、ドイツのすぐ下に位置します。

 

PACSは子供を増やしたが、幸せな子供を増やせたのか?

 

PACSの導入によって先細りが予見されていたフランスの人口問題に明かりが差し込みました。もちろん、フランスは子供を育てやすい環境づくりのために、PACS以外にも様々な分野で力を入れたので、それらも併せて出生率が改善されたのです。

子供の数が増えてほっとしたのは大人たち。子供が増えれば将来の税収が増えて、社会保障などが守られますからね。社会保障が手厚いと自負するフランスとしては、どうしても守り通したい部分でもあります。

しかし、PACSは子供の幸せを守っていると言えるのでしょうか。これが僕の考えるPACSという制度のおとしあなです。

 

これは実際に僕がフランスで経験した話です。

フランス滞在の最初のころ、僕はとあるフランス人の家でベビーシッターをしていました。僕が面倒を見る5歳の男の子は、お父さんの2度目の結婚のお母さんとの間に生まれた子です。この3人はいつも一緒に生活しています。

しかし、お父さんには、前の奥さんとの間にも子供がひとりいます。フランスでは離婚した後も両方の親が半分ずつ子供の面倒を見るのは一般的です。「半分ずつ」とかきましたが、見事に折半されているのです。例えば、月水はお母さんの家で過ごし、火木金はお父さんの家で過ごす。週末は隔週でお互いの家で過ごす。といった具合です。

なので、その子はほぼ毎日大きなリュックサックを背負ってお互いの家を行ったり来たりしているのです。お父さんのいる家には新しい家族が出来上がっていて、血のつながっていない兄弟もいるわけですが、ごく自然に家族の一員として受けいれられています。お母さんの方には新しい彼氏ができているのですが、こちらも家庭内の問題などは特になく、愛情ある家庭として機能していました。

それでもお互いの家を行ったり来たりするという生活は、子供の心には大きな負担となっていたのでしょう。家庭内でのストレスで堰を切ったように泣いているのを何度か見かけました。

 

両親の仲が悪く、家庭環境がぎくしゃくしたまま子育てを続けるというのも、考えものです。親も幸せを求め続けられるような柔軟なパートナーシップを構築する制度は、良い家庭づくりを導いてくれるものなのかもしれません。PACSは、この後者の考えを後押しする制度であると思うのです。実際に出生率の改善には貢献しているのですから。

しかし、その制度によって生まれた子供たちには、上に書いたような新しい問題が出てきていることを忘れてはいけません。フランスは出生率の次に待ち構えている新しい問題に、日本よりも先に直面するかもしれないですね。

 

他にもある、PACSが広く受け入れられた理由

 

PACSがフランスで好意的に受け止められた理由には、正式な結婚よりも略式であるという点だけではありません。

もう一つ考慮に入れておくべきものが、フランスの同性婚合法化です。フランスではこのことを"le mariage pour tous(全ての人への結婚)"という言い方をすることがよくあります。「同性愛者」に限らないような言い方をする点が、なんともヨーロッパの気質を感じさせます。フランスで同性婚が認められたのが2013年。対してPACSは同性間での締結が認められていました。フランスでPACSが登場してから同性婚が認められるまでの間は、多くの同性のカップルがPACSを利用したと言われています。

しかし、ヨーロッパではフランスよりも早く同性婚が合法になった国がいくつもあります。EU内の人の自由は比較的自由ですので、フランスの同性カップルが「結婚」をしたい場合はPACSをすることなく、EU内の他の国で結婚をするという事もあったと言われています。

 

日本でもパートナーシップ制度

 

出生率の減少に頭を悩ませている日本でも、PACSのようなパートナーシップ制度を導入して若者の出産率を上げようという考えがあります。事実婚が広まれば、もっと簡単に子供が作ることができるという考えがあるようです。

でも、日本の出生率の低下の原因は、結婚のシステムの煩雑さじゃないですよね。仕事の問題、お金の問題、教育の問題…他の問題のほうが強く関係していると思います。

日本のパートナーシップ制度については、同性間の婚姻などの他の問題を焦点にした時に話題に上ります。アジアは今まで同性婚を認めていない唯一の地域として国際的に非難を浴びていたのですが、最近になって台湾が同性婚を認可する方向に動き出しました。これを受けて日本でもパートナーシップ制度に関する議論がされるようになるんじゃないでしょうか。現在の日本ではパートナーシップ制度というのは性の多様性を守るためだけにあるようです。今後は他の国々が定めているパートナーシップ制度の様に、あらゆる方面への権利を守る制度へと成長していくかもしれません。日本の出生率を改善するために、あるいは外国から人を招き入れるために、広範な事案にパートナーシップ制度が活用される日が日本にもやってくるかもしれないのです。

 

おわりに

 

ここまで書いて気づいたのですが、「下流老人」全く関係なかったですね(笑)

っていうか、今回の記事は、もう一つ書きたいと思っていた生命倫理の問題であるPMA(procréation mécicalement assistée,生殖補助技術)の前段階としてフランスの結婚事情の側面を書きたかったのです。PMAは、簡単に言ってしまえば体外受精などの人工妊娠技術のこと。PACSで自由な婚姻、子育てを選択したフランスでは、今新たなステージの問題に直面していると思うのです。その一つが、PMA。

古きをたずねて新しきを知る、なんて言いますが、海外の事を知って、日本のこれからの問題を予見するという事も可能だと思うのです。

 

というわけで、時間を見つけて次はPMAの記事を書きたいと思います。サンテーズみたいな感じで記事が書けたらいいなぁ…(願望)