フランシウム87

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蕎麦粉とサラセンとアラブ人

フランス料理と聞いて、何が頭に思いつくでしょうか。

日本でも専門店があったりと人気のガレットは、フランス料理の中でも特に有名な料理の一つです。

さて、フランス北西部に位置するブルターニュで作られたガレットには、日本でもなじみ深い蕎麦粉が使われていることは知っていますか?今回は蕎麦粉のフランス語の呼び方と、それにまつわるエピソードを紹介します。

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ガレット・ブルトン

そもそも、ガレットとは何でしょうか。

本来ガレット(galette,女性形)とは、薄く丸い形に焼いた食べ物のことを指します。クレープのように薄く焼いたガレットのほかに、フランスでガレットというとガレット・デ・ロワ(galette des rois)という、新年に食べられる甘いお菓子も有名です。このお菓子の中には小さな人形が隠されていて、切り分けた時にこの人形に当たった人には良いことが訪れると言われています。

一方で、クレープのように薄く焼かれたものは、ガレット・ブルトンヌ(galette bretonne,ブルターニュのガレット)、galette de blé noir(黒小麦のガレット)など区別されて呼ばれることがあります。見た目はクレープよりもくすんだ色をしています。それもそのはず、クレープには真っ白な小麦粉を使うのに対して、ガレットには灰色の蕎麦粉を使うからです。

 

フランスの蕎麦粉

えっ、フランスにも蕎麦があるの?と思うかもしれません。

実は、植物の蕎麦の発祥の地は中国南部と言われていて、そこから東へ韓国や日本まで広がりました。同時に西にも広がり、中東やヨーロッパを通じてアメリカ大陸にまで渡っています。

蕎麦は栄養に乏しい土でも育つ植物として知られています。そのため、寒冷な東・北ヨーロッパで栽培が進んだ蕎麦は、貴重な食料として庶民の生活に浸透してゆきました。最初、主な食べ方は蕎麦の実を茹でたお粥のようなものだったそうですが、次第に加工が進み、粉にして薄く焼く方法が考えられました。こうしてできたのが、フランスのブルターニュ地方で作られたガレットです。

 

土地の気候が生んだフランス料理

ブルターニュというのは、あれの日が少なく雨がちで、お世辞にも気分が晴れ晴れとするような場所ではありません。南仏からブルターニュ地方に行くと、気分が落ちこみ、なんだか重苦しい空気につかれてしまいます。(同時に、空気がいつも湿っているので、肌は潤っていいのですが…)

このように太陽が少なくて野菜を栽培するのが難しいような場所でも、力強く食料供給を支えてくれていたのが、ほかでもない蕎麦です。

今でこそガレットというと、こんな感じに薄く焼いた生地にたくさんの具をトッピングするものとして認識されています。

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しかし、食料に乏しい時代のガレットは、パンやコメに代わる主食として味気ないものとして作られていました。ソーセージなどの肉を包んで食べたりもするそうです。

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蕎麦はどこからやってきたのか

さて、蕎麦粉をフランス語でいうと何でしょうか?

まず一つに、farine de blé noir(=黒小麦)という言い方があります。もっとも、蕎麦と小麦は全く別の植物ですので、これは粉にしたときに黒っぽい小麦粉に見えることからつけられた呼び方です。

もう一つは、farine de sarrasinです。sarrasin…あまり聞きなれない単語ですが、日本では「サラセン」という単語で知られています。

 

知られています、と言ってもこの単語を聞いたことがあるのは僕ぐらいの年代までみたいです。サラセンというのは「アラブの」という意味で、世界史のなかで中世アラブ人のことを「サラセン人」、アラブ帝国を「サラセン帝国」なんて言ったりします。

しかし、最近は教科書や授業で「サラセン」という単語を使わなくなったそう。というのも、ヨーロッパを中心とした世界史観の中でアラブ人、つまり異教徒たちをサラセンと呼ぶからです。反対にアラブ人から見たヨーロッパの人を何と呼ぶでしょうか。答えは「フランク人」です。これは今のフランスができる前にあったフランク帝国から来ています。

ちなみに、私たちが日常会話でよく使う「フランクな」という言葉の意味を正しく言えますか。答えは「率直な」です。これも語源はフランク帝国から来ているので、機会があれば調べてみてください。

話を戻しますが、世界史でアラブ人のことをサラセン人と呼ぶのであれば、西欧の人をフランク人と呼ぶべきです。だったらどちらにも公平な立場からアラブ人という呼び方にしよう、ということになったのだそうです。

 

しかし、なぜ「サラセンの小麦粉」が蕎麦粉なのでしょうか。

これは、もう察しがついているかもしれませんが、アラブ人がヨーロッパに蕎麦をもたらしたからです。僕はてっきり「あぁ、あの褐色の色合いが…」とか思っていたのですが、違いますよ(*_*;

 

ちなみに、アラブ人によってヨーロッパにもたらされた主要な穀物に米もあります。米は北アフリカを通じてイベリア半島(スペインとポルトガルがある場所)に広がりました。だから、スペインにはパエリアという有名な米料理があるんですね。

 

終わりに

今回はガレットと蕎麦粉の意味について掘り下げてみました。

つまり、galette bretonne de sarrasinというと「アラブ人のブルターニュ風ガレット」という意味にもなってしまうわけですね…(*_*;ヤヤコシイ

今度ガレットを食べるときは、遠いアジアから伝わってきた蕎麦のロマンを感じてみてください^^